第120話 8章:ブラッディドリーマー(5)

「来週の売上を二倍にするなんて、そんなことできるの?」


 ユリミラからの帰り道、服部が訝しげに聞いてきた。

 その手から下げた紙袋には、ユリミラの制服が入っている。


「まあ大丈夫だろ」


 由依に調べてもらったデータを見た感じ、あの店舗にはそもそも客が入っていない。

 それは今日の現地視察でも体感できた。

 料金値上げのせいで全体的に低迷を始めているようではあるが、他の店舗はまだまだ人気なので、ブランド力のせいではない。

 おそらく、立地的にメインのターゲットは学生となる割に、商品の単価が高すぎるのだ。

 制服のかわいさだけで、学生を大量に呼び込むのは無理がある。

 ただ、回転率や客単価を上げる必要はないというのは、こちらにとっては朗報だ。

 人さえ集められれば良いのだからな。

 長期間継続しなければならないなら厳しいが、短期的な売上アップならやりようはある。


「さっそく服を作り始めてほしいところだが、今日だけはその制服をかしてくれ」

「変なことに使うつもりじゃないでしょうね?」


 服部がジト目でこちらを見てくる。

 そんな目で見られるようなことをしたつもりはないんだが!?


 女子の見た目で客を釣ろうという発想自体がアレだと言われればそうなんだが。


「あとはクラスの女の子達が、バイトに参加してくれるかね。可愛い娘でOKくれそうなのは、あと五人くらいかなあ……」


 渡辺が「うーん」と首を傾げている。

 このあたりの可愛く見せる仕草はもはや、計算というよりクセになっているのだろう。


 店長には、クラスの可愛い女子を追加で何人か面接してもらえるよう頼んでおいた。

 彼女達は『客が増えたら』という条件付きだが。


「私達がユリミラでバイトをして稼いだお金で服部さんに衣装を作ってもらうなんて発想、よく出て来たわね」


 由依がしきりに感心している。


 外注での子請け、孫請け、ひ孫請けは日本のお家芸だからな。

 オレがいた会社は受ける側だったからこそのブラックだったが。

 今回の契約はちゃんと対等なものだ。


「バイトメンバーは喫茶店での実地訓練もできるし、良い感じに働いてもらえれば店長の印象もよくなる。

 コラボが成功すれば、うちのクラスの宣伝も店でしてもらえる。一石三鳥だろ」

「さすがね! 私もがんばる!」

「じゃあ、帰りにうちによってもらえるか?」

「え……うちに……? い、いいよ……」


 なぜそこで顔を赤らめる。

 へんなことをするワケじゃないからな。


「やっぱりあなた達、この制服を使って……」


 服部はオレをなんだと思ってるんだよ。


「せっかくだから渡辺にも来てもらった方がいいな」

「え……学校でも人気の女子二人を家に連れ込んで何する気……?」


 自分で『人気』とか言っちゃうあたりが、実に渡辺だ。


「いや、やっぱり場所は学校の方がいいな。日が落ちてきてるから、明日にしよう。悪いが、衣装を渡すのは明日の放課後にしてくれ」


 変な疑いをかけられるのも面倒だしな。


「ええ-?」


 なんで由依はちょっと残念そうなんだよ。


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