第119話 8章:ブラッディドリーマー(4)

 オレは食事をしながら、作戦について説明をした。


「たしかにそれなら、少なくともお金は解決するわね。さすがカズ。異存ないわ」

「アリね!」

「へえー、あんた達のクラス、色々考えるのね」


 ここにいる女子三人の了解さえ取れれば、あとは実行に移すだけだ。


 幸い、店内はちょうど空いてきたところだ。


「すいません」


 オレはそばを通りかかった、『店長 沢村』と書かれたネームプレートを胸につけた20代後半の女性に声をかけた。


「はい、ご注文ですか?」

「いえ、この娘達がここでバイトをしたいと言っていまして、面接していただけないかと」

「それでしたら、後ほどお電話を頂ければ」


 当然の対応ではある。

 だが、それでは困るのだ。

 通常のルートでは別々に面接をされてしまう恐れがある。


「今から少しだけでもお話しさせて頂けないでしょうか? お時間はとらせません。四人まとめてでかまいませんので」


 店長は店内を見回し、店がすいていることと、数名の客がこちらに注目していることを確認すると、渋々頷いた。


「わかりました。お会計をお済ませください」


 よし、まずは第一関門突破だ。




「座って」


 オレ達四人が通されたのは、六畳ほどの事務所だった。

 事務机の前に座った店長が、別の部屋から持ってきたパイプ椅子を勧めてくれた。


「失礼します」


 オレと由依は一礼し、腰掛けた。

 服部と渡辺もそれに続く。


「今は女子しか募集してないわよ?」


 開口一番、厳しめの表情でコレである。 

 まだ圧迫面接なんて言葉があった時代だからな。

 面接に来る人も客になるかもしれないだとか、悪い噂がSNSで広がるだとかなんて話が出る前のことだ。

 この店長さんも悪気があるわけではないのだろう。

 表では見せなかったが、かなり疲れた顔をしている。


「かまいません。雇ってほしいのはこの二人だけです。ビジュアル的には申し分ないと思いますよ。

 こちらの渡辺は学級委員長を務めるだけあって、目端がききます。白鳥は育ちも良く、礼儀は一通り躾けられています。不作法はしませんし、体力もあります」


 そう言ってオレは、事前に預かっておいた二人の学生証を店長に見せた。


「履歴書は後ほどお持ちします。いかがですか? きっとお店の助けになりますよ」

「あなた、高校生のフリしたサラリーマンかなにか? それにしては若いけど……」

「ただの17才ですよ。この店舗の売上に貢献したいだけのね」

「何が言いたいの?」


 この部屋に来て初めて、店長の顔つきが真剣なものへと変わった。

 今までもふざけていたわけではないが。


「ユリミラチェーンの中でこの店舗の売上、最下位らしいですね。立地的な問題もあると思いますが、巻き返したいのでは?」

「なんでそんなことを知ってるの?」


 放課後までの間に、由依に調べてもらったのだ。

 ユリミラは、学校から行ける範囲に五店舗ある。

 その中で、あえて売上が低いところを狙った。


「ちょっとツテがありまして」

「本当に高校生……?」

「二人を雇ってくれた上で、いくつか頼みを聞いて貰えれば、ささやかながらこの店の売上に貢献させて頂きます」

「貢献って……キミが毎日食べに来る程度じゃ、大した足しにはならないよ?」


 真剣に話を聞く気になったかと思ったが、まだこちらを侮っているな。

 まあ、高校生だしね。

 多少侮ってもらった方が、子供に協力してあげようか、というお情けも期待できるとも言える。


「その前に、頼み事の方を聞いて下さい」


 オレが出した条件は二つだ。

 一つは、制服一着、服部に貸し出すこと。ユリミラの制服をコピーするためだ。

 もう一つは、学園祭でだす模擬店に、ユリミラの名前を使わせてもらうこと。つまり、コラボである。


「こっそり制服を貸すのは考えてもいいけど、名前を使う件は本部に聞いてみないと難しいわね」

「でしょうね。そこは、交渉の場を設けてもらうだけでかまいません」

「一応、本社とのホットラインはあるけど、いちいち高校生の言うことを聞いてくれるとは思えないよ?」

「この店舗の売上が、二週間で倍増したら? 実利もあって、地元も大事にする企業としてイメージアップも図れるし、良いことずくめではないですか?」

「それくらいの手土産があれば、話くらいは聞いてくれるかもしれないけど、作戦はあるの?」


 その言葉を引き出せればこちらのものだ。

 興味さえ持ってもらえれば、後は結果を出すだけである。


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