第118話 8章:ブラッディドリーマー(3)
「それじゃあせっかくだし、ユリミラに下見に行きましょう。メンバーはわたしと、発案者の難波君でしょ。あと誰か必要かなあ? あまり多くても困るけど」
そう言い出したのは渡辺だ。
まだ各社のホームページもさほど充実しておらず、ブログなんてものも流行る前だ。
モデルにするお店くらい、一度は見ておいた方が良いのは確かだ。
「そうだな……」
オレが指定したメンバーは、由依と服飾部の服部さんだ。
そんなこんなで放課後、ユリミラの前だ。
「校内でも有名な美少女二人に、最近たまに噂を聞く難波君かあ。なんであたしが呼ばれたの?」
そう言った服部は、同じ制服姿のはずなのに、着こなしている感がすごい。
スカートの長さが絶妙だからなのか、教師に目をつけられないギリギリを攻めた化粧、緩くウェーブのかかった髪のせいなのかはわからない。
そんなモデル体型と言ってもよい細身の少女が、眉を潜めながら、オレたち三人を見比べている。
美少女と呼べないこともないのだが、いかんせん隣にいる由依と渡辺のレベルが高すぎて、埋もれてしまっている。
道行く人の殆どが視線を注ぐ集団だ。
「なにかの撮影かな?」などと言われるのもさもありなん。
最初の人生ではありえなかった組み合わせだな。
「服部さんが服飾部の中で服を作るのが一番上手いって聞いたからだよ」
「その通りだけど、それがなぜあたしをユリミラに連れて行くことになるの? おごりだって言うから、拉致されてあげたけど、そんなに暇じゃないのよ?」
「拉致とは人聞きの悪い」
美少女二人に、彼女の両サイドを固めてもらったのは確かだが。
しかし、謙遜せずに認めるあたり、かなりの腕なのだろう。
高校生にして既に夢はデザイナーと公言しているらしいからな。
どこかのコンテストで賞をとったこともあるとかなんとか。
「制服をよく見ておいてほしいんだ」
「それくらいかまわないけど……というか、ここの制服かわいいって評判だから、一度見ておきたいとは思ってたのよね」
「だろ? じゃあ問題ないな」
首を傾げているのは服部以外の二人も同様だ。
まあ、正直どうなるかはわからないがな。
投資という奴である。
店内に入ると、噂のかわいい制服を着たウェイトレスさんが出迎えてくれた。
制服はエプロン風のミニスカートに、胸を強調したデザインだ。
最初の人生でオタク仲間と意を決して入店したのを思い出す。
あの時は男二人だったなあ。
ユリミナの制服をモデルにした美少女ゲーム、『Vivaカカロットへようこそ』にハマってたんだよな。
「たしかにかわいいわ……」
「うん、かわいい。秀逸なデザインね」
「たしかに、あの制服ならお客さん呼び込み放題ね」
女子は三人とも、ウェイトレスの制服に目が釘付けになっている。
「なあ服部さん、あの制服、作ってみたくないか?」
オレはメニューを開きながら、服部の顔を覗き込んだ。
「そういうこと……。学園祭で喫茶店か何かやるのね」
「察しがいいな。それで、服飾部に手伝ってほしいんだ」
「魅力的な申し出だけど、残念だったわね。ウチの部は毎年、演劇部の衣装を作ることになってるの」
「作ってもらった衣装は買い取ると言ってもか? 服飾部の活動費、そんなに多くないんだろ?」
「女子十五人分以上よ? そんなお金、クラスに割り振られた予算じゃ足りないとおもうけど?」
「へぇ……金がなんとかできればやってくれるってことだな? いくらだ?」
服部が提示した金額は、高校生の小遣いで出せる金額ではなかった。
だが、バイト程度の単価に労働時間をかけて、特急料金を入れれば、こんなものだろう。
「かなりするな……これを出せば作ってくれるんだな?」
「出せるならね」
どうせ無理だろうという顔だ。
「ちょっと難波君。クラスの予算じゃ足りないよ。やっぱり自分たちで作った方がいいんじゃない?」
「服部さんが作るほどのクオリティを出せる人はいないだろ?」
「それはそうだけど……」
クラスの出し物が決まったところでアンケートをとってみたのだが、裁縫が得意と胸を張れるメンバーはいなかった。
「制服の見た目が一番のウリなら、そこはこだわりたいところだな」
「み、見る目はあるじゃない……」
服部がちょっと顔を赤くして、立てたメニューで口元を隠した。
高飛車な印象だったが、これはちょっとかわいいかもしれん。
「でもまけてあげる気はないわよ。こっちだって、演劇部用の衣装を作る隙間に無理やり突っ込むんだから、徹夜覚悟になるんだし」
「値切ったりはしないから安心してくれ」
それでクオリティを落とされたら元も子もない。
「じゃあどうするの? カンパを募ってというのはあまりやりたくないよ?」
渡辺の判断は正しい。
自腹を切ることに抵抗が大きい生徒も多いだろうし、出した金額で発言権に差が出るのも、学園祭をつまらなくしてしまうかもしれない。
「作戦を話すから、まずは注文しようか」
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