第103話 7章:オレにとってはぬるキャン△(7)
「お腹すいたね。ご飯にしようか」
「いいですね」
「賛成です」
腕時計を見ると、正午を過ぎたあたりだ。
PHSは森に入る前に没収されているので、時計があってよかった。
携帯電話を持つようになったあたりから、腕時計をする習慣がなくなっていたからな。
森に入ったのが10時頃なので、かれこれ2時間以上は整備されていない山を歩いていることになる。
慣れない人が獣道すらない山を歩くのは、想像以上の体力を奪われる。
真田はもちろん、双葉にもやや疲労の色が見えている。
さすが由依は修行の成果が出ているようで、平然としている。
ここまでに見つけたチェックポイントは2つ。
まずまずのペースと言って良いだろう。
「あそこの岩に座ってお弁当にしましょう」
由依が指さした先には、ちょうど腰かけられるような岩が十個ほど斜面から突き出ていた。
「そういや、朝から双葉も準備してたが、なんでキャンプに弁当が必要なんだ?」
「「「え?」」」
オレの疑問に、三人の目が点になった。
あ……そうか、キャンプと聞いて異世界での野宿をイメージしていたが、そんなことはなかった。
「夜はバーベキューだけど、昼は持参ってしおりに書いて――読んでなかったんだったね。大丈夫! ちゃんとカズの分もお弁当持ってきてるから」
「ちょっと白鳥さん、お兄ちゃんのお弁当はあたしが作ってきてるから大丈夫だよ」
「あら、カズのお昼を作るのは私の役目だよ?」
「そんなの認めてないもん!」
「なんでこのにーちゃんが、そんなにモテるんだ? 野球が上手いのか?」
にらみ合う女子二人を交互に見比べながら、真田がぼけっと口をあけている。
なんでそこで野球が基準になるんだよ。
「弁当はありがたく頂くんだが、せっかくのキャンプだし現地調達といこうか」
「魚でも釣ってくるの? 近くに川はありそうだけど……」
由依はオレが教えた聴覚強化で、水の音を聞いたのだろう。
いいぞ、ちゃんと修行しているな。
「いや、イノシシを捕ってくる」
「イノシシなんていた?」
「新しい足跡があったぞ。ちょっとまっててくれ」
「え、ちょっと!」
そう言うとオレは木の上に飛び上がり、枝を伝いながらイノシシの臭いを追った。
◇ ◆ ◇
「ただいま」
「「「はやっ!?」」」
イノシシを狩って戻るまで約5分。
今回のオリエンテーリングで、人間の能力を大きく超えるような魔法は使わないつもりだったが、イノシシを狩ったり川で血抜きをするときくらいは良いだろう。
下流から「血だー!」とか悲鳴が聞こえてきたが……。
正直すまんかった。
「ほ、ほんとにイノシシ担いできたよ……。やはりキャンプの達人だったか……」
真田が目をまんまるにして驚いている。
「薪も拾ってきたからな、調味料は一通り持ってきてるから焼いて食おう。山火事には気をつけてな」
「まるまる一頭はちょっと多くない? 残しちゃうと持ち歩くのは臭そうよね」
「朝からリュックに何入れてるのかと思ったら、調味料だったんだ……」
「大丈夫。半分以上は川で冷やしてある。こっちに中身はそんなに入ってないからな」
川においてきた分は、オリエンテーリングが終わったら取りに行こう。
もちろん内臓も抜いてある。
「ちょっとちょっと二人とも! なに普通に受け入れてるんすか! キャンプの達人すぎでしょ、この人!」
「カズならこれくらいするかなって。ねえ、双葉ちゃん」
「ですね」
「えぇ……。普段どんな生活してるんです……?」
世の中には色んな人がいると、真田にはよい経験になっただろう。
どこで活きるかしらんけど。
ぼちぼち『しかける』ことになるから、ちゃんと食っとけよ?
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