第61話 5章:ドラッグ オン ヴァリアント(18)
校内を白いTシャツにジャージの女子高生がたくさん歩いている。
身体検査を終え、更衣室用に割り当てられた教室に移動中だ。
今日は暖かいせいか、ジャージの上着を羽織っていない生徒が多い。
ブラが透け放題である。
転生前も合わせると、約60年生きていることになるオレだが、60歳まで生きたわけではない。約40年と、17年と少しを生きたのだ。
実際にアラフォーになってみたとき、周りの連中も言っていたように、自分は子供だった。
もちろん色々なことは覚えた。でもやはり子供だったのだ。
自分が子供だと理解できたこと、できることとできないことを知ったことが、大人になるというならば、そうかもしれない。
さらに、あちらでの人生は、戦いに明け暮れる日々だった。
おかげで人を超えるほどに強くはなった。
そして今、三度目と言ってもよい17才を過ごしている。
魂は体の属物という説がある。
体が健やかならば魂も健やかに、体が病めば魂も病むという話だ。
『魂』がなんなのかは知らないが、『心』と言い換えてもよいだろう。
つまり、体が若ければ思考も若くなると言えるのではないだろうか。
つまりのつまり。
この世を過ごした年数で言えば遥か年下の女子高生達の身体に目が奪われることもまた、体が若いせいだとは言えないだろうか。
つまりのつまりのつまり。
オレは犯罪者じゃないと言いたい。
などと余計なことを考えて心頭滅却するわけだが、それで周りから薄着の女子高生がいなくなるわけではない。
中にはジャージの上着を着込んだり羽織ったりしている女子もいるが、それはそれで鴨川である。
ジャージと聞くとなぜかその地名が思い浮かぶ。
「おい難波。お前、凄い体してたんだな」
教室に戻る途中、そう言ってオレの腹筋を小突いてきたのは、クラスの男子だ。名前は……なんだっけな。
「オレにそのケはないぞ」
「俺にもねえよ!」
「え……?」
「なんで心底意外そうな顔をする? 女子達の目が痛いんだが?」
「安心しろ。そういう趣味の女子もいる」
「意味がわからないんだが!?」
腐女子という単語が広く知られるようになるのは、まだ先の話だ。
「ほら渡辺、こいつの腹筋すごいんだぞ」
男子はオレの腹筋にチョップをしながら、前を歩くクラス委員の女子に声をかけた。
後ろで長い髪をみつ編みにした美少女、渡辺だ。
由依がいなければ、学年でもトップの可愛さだっただろう。
「えーどれどれ? ホントだ、すっごーい!」
わざわざオレの横に並んで歩調を合わせる渡辺は、指でオレの腹筋をつついてきた。
この気安さが、男子から多大な人気を集める理由である。
由依は高嶺の花で、話しかけるのにハードルがあるが、渡辺はその逆だ。
オレは彼女が全てそれを計算でやっていることと、由依を諦めた男子が自分に来るのを苦々しく思っていることを、最初の人生で起きた『とある出来事』で知った。『今』から少し先の話だ。
だがら、コイツにあまり良い印象はないんだよな。
腹筋をつつきながら、渡辺はスポブラに包まれた胸をオレの腕におしつけてくる。
や、やわらかい……。
こんなことで印象が変わったりしないんだからね!
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