第49話 5章:ドラッグ オン ヴァリアント(6)
スサノオに遭遇した放課後、オレと由依はさっそく駅前のゲームセンターへと立ち寄っていた。
都心ほどではないものの、それなりに賑わっている駅前には、二店のゲームセンターがある。
未来では家庭用ゲーム機で気軽にネット対戦できるようになったこともあって、少なくなったゲームセンターだが、この頃はまだ街にたくさんあった。
オレもなけなしの小遣いをにぎりしめて、たまに遊びに行ったものだ。
ひとつは駅の中にある店内が明るく綺麗なゲーセン、もうひとつは駅から少しだけ離れた場所にある個人経営の薄暗いゲーセンだ。
かつては不良のたまり場であったゲーセンだが、この頃はもうクリーンな店も増えてきていた。過渡期というヤツである。
不良が流行っていたのも、オレが中学生以前くらいだしな。
他の高校に行ったやつによると、いまだに校内で『集金』があったりするらしいが。
「ゲーセンは初めてか?」
「うん、すごく楽しみ」
ゲーセンに行くだけなのに、無邪気な笑顔だ。
さすがお嬢様……と言いたいところだが、ゲーマーでもない彼女が訪れる理由はないか。
まずは綺麗なゲーセンから行ってみよう。
「おお……プリクラとクレーンゲーム以外がたくさんある……」
店内の多くを占めているのは格闘ゲームだ。
いくつものタイトルが毎年のように発売される黄金期である。
学校帰りらしき学生ゲーマーにまじって、サラリーマンもチラホラいる。
まだ17時前なんだが、サボりか?
このいろんな人種がゲームだけで繋がってる感じが好きなんだよな。
知らない人と対戦するのは怖かったけど。
とはいえ、今日は調査をしにきたわけだが……。
「何をすればいいんだ?」
手がかりがなさすぎて、どうしていいかわからんぞ。
「向こうに見つけてもらうのが早いかもね。まずは場に溶け込むことかな?」
「つまり?」
「一番流行っているゲームで遊びましょう」
すごく楽しそうだなおい。
まあいいか。
他に手もないしな。
「今一番……一番というと難しいな。ジャンル的には格ゲーなんだが……」
それほど色々なタイトルが出ていた時期だった。
「ぐるっと見て回って、一番見た目が気に入ったのをやってみようか」
システムがどうこうよりも、意外とキャラの見た目や世界観が気に入ったものをプレイするのが、一番楽しかったりするもんだ。
「ん~そうだなあ」
由依と並んで店内にいると、ものすごい数の視線が刺さってくる。
女連れというだけで珍しいのに、それが金髪巨乳の黒タイツJKだ。
目立つなという方が無理な相談である。
「これがいいかな」
由依が立ち止まったのは、『ナイトウォーカーセイヴァー』。
ヴァンパイアやサキュバスから雪男まで、古今東西の魔物が戦う2D格ゲーだ。
個人的には思い出の一作であり、続編を待っていたのだが、オレが転生する前に発売されることはなかった。
セイヴァー2? 知らない子ですね。
「なかなか良いチョイスだな」
「そうなの?」
「ゲームスピードはかなり速いが、由依の動体視力なら問題ないだろ」
「そうかな? うん、やってみる」
「あそこにしよう」
ナイトウォーカーセイヴァーの筐体は、八台ほど並んでいる。
その中で、向かい合った対戦台のどちらにも人が座っていないものを選んだ。
いきなり乱入するのはしんどいからな。
由依が選んだのは、メインヒロインとして扱われることも多いサキュバスだ。
露出度の高いお姉様である。
オレは肩越しに基本的な操作方法を教える。
最初はボタンを押すのも上手くいかなかったが、CPUと二戦もすると、一通りのコマンドを出せるようになってしまった。
さすが頭のデキが違う。
「ボタンを連続で押すと、通常技がつながるぞ?」
「どういうこと?」
このゲームの特徴なのだが、上手くコツがつかめないらしい。
「私の指の上から押してみて」
「おぅ……」
オレはボタンに添えられた由依の指の上からボタンを優しく叩いた。
すごく恥ずかしいんだが!?
なんだかもう、バカップルそのものである。
「ちっ……」
そんなオレ達の背後から舌打ちが聞こえてきた。
残念ながら気持ちはわかるわ……。
舌打ちをした黒い革ジャンの男は、筐体をぐるりとまわりこみ、由依の反対側に座った。
そしてこちらの画面には、挑戦者登場を意味する文字が躍っている。
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