第38話 4章:パパ活ですか? いいえ、援交です。(11)
鬼まつりの首根っこを掴んで持ち上げたリーマンは、彼女を盾にして、その影に隠れている。
「ロキ! よせ!」
「ふんっ、臆病なんだよ、スキールニルは」
ロキと呼ばれたリーマンが、宅配業者の言葉を鼻で笑った。
ロキ……たしか、北欧神話で世界の終末をもたらすと言われる神だ。
変身能力もあるとか。
スキールニルという名前は聞いたことがないが、名前の雰囲気から察するに、北欧神話系だろう。
隣で神器を起動させた由依がデザートイーグルを構えているが、ロキは上手く鬼瓦を盾にしている。
銃の弾は効かないはずだが、それが神器かもしれないと警戒しているのだろう。
「まずは顔をみせろ」
ロキが右手の中指にはめた金色の指輪が輝くと、オレと由依の顔にかけていた認識阻害の魔法が解けてしまった。
あちらの世界で、こういった搦め手は他のメンバーに任せていたため、あまり得意ではない。
とはいえ、そこらの魔道士に解かれるようなものではないはずだが……さすが神か。
あの指輪がヤバイ感じだな。
「難波に白鳥……? ひっく……お願いたすけて! トイレのことは謝るから! だからぐぇ――」
「静かにしてろ」
鬼まつりの首をつかむ手にロキが力をこめると、鬼まつりは潰れたヒキガエルのような声を上げて黙った。
彼女の手足はガクガク震え、涙と鼻水で濃いメイクはグチャグチャ。
スカートの下からは液体がぽたぽたと垂れている。
「トイレのことって?」
「陰湿なアレソレよ」
由依の短い答えだけで、なんとなく把握した。
こんなヤツを助けるべきか迷うところだが、ヴァリアント達を倒さなければならないことに変わりはない。
「できるなら助けましょう」
そんなオレの心情を察したのか、由依は静かにそう言った。
「わかった」
被害を受けたであろう由依がそう言うなら異存はない。
顔見知りを見捨てるのも寝覚めが悪いしな。
世界の命運を背負っているわけじゃないんだ。
手の届く範囲で助けられる命を助けるという『楽(らく)』をしたっていいだろう。
助けるよりも、切り捨てる方が辛いことを、オレはよく知っている。
「やれやれ、人間に擬態して上手くやってたんだがな」
そう言ったロキの肉が内側からぼこぼこと膨らんだりを繰り返し、その姿を変えた。
もとはやや小柄な冴えないサラリーマンが、180センチを超える、さわやかな細マッチョイケメンに変化した。
「ふぅ……久しぶりだが、やはりこっちの体の方がしっくりくるな。よっ!」
グルグルと肩を回し、体の調子を確かめていたロキが、無造作に拳を突きだした。
――ドガァ!
顔の横を風が吹き抜けたかと思うと、背後のコンクリート壁に人が通れるほどの大穴があいた。
「け、拳圧だけで?」
それを見た由依が身震いする。
「いっけね。あんまり目立っちまうと、食事がしにくくなるな」
ロキの指輪が光ると、ビルの内側が魔力の壁に覆われた。
「結界か」
「へえ……あんた、魔力が視えるのか」
「ビルの保護に防音、ついでにオレ達を逃がさないための結界ってところだろ」
「やぁっ!」
――ぐわんっ!
神器を起動した由依が壁を蹴るも、コンクリートの表面に光の波紋が浮かぶだけだ。
「コンクリートくらいぶち抜ける強さで蹴ったのに……」
「そっちのお嬢さんもなかなかだな」
ロキはどこか楽しそうに笑みを浮かべた。
こいつ、かなり強い。
特に右手の中指にしている指輪が予想通りやばいな。
レプリカではない、本物の神器というヤツだろう。
「俺は楽して勝つのが好きでね。とりあえずもう少し下がってもらおうか」
人質も取られているし、由依に任せるのは危険か……。
「由依、鬼まつりを頼むぞ」
オレはそう言うと、片手にトールの時にも使った剣を取り出しながら、ロキへと突っ込んだ。
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