第37話 4章:パパ活ですか? いいえ、援交です。(10)

「ちょっと失礼する」

「へ? お姫様だっこ――きゃっ!?」


 オレは由依を抱きかかえると、空へと飛んだ。


「舌を噛むなよ」


 そう言っている間に、オレはすでに血の臭いのする廃ビルに到着していた。

 ガラスのはまっていない十階の窓から飛び込む。

 外から様子を見ることも考えたが、こんな廃ビルから大量に漂う血の臭いが、まともなものであるはずがない。


 中に気配は四つ。

 念のため、オレと由依の顔に、認識阻害の魔法をかけておく。

 これで、二人の顔はぼやけるはずだ。

 普通の人間同士の事件なら、無視してそのまま離脱する。


 コンクリート打ちっぱなしの室内に飛び込んだオレは、着地前に周囲の状況を確認する。


 昭和の主婦っぽいパーマをかけた三十代後半の女、若い宅配業者の男、サラリーマンのおっさん。

 こいつらは口のまわりに血がべっとりついている。

 気配は『ほぼ』人間だ。

 この距離まで近づかなければ、ヴァリアントだと判別できないほど、己の魔力を上手く隠している。


「いや!! いやぁっ!!」


 サラリーマンが今まさに、手を縛られながらも、悲鳴をあげつつ暴れるギャルの首筋に牙を突き立てたところだ。

 

 悲鳴からもしかしてと思ったが、喰われようとしているのは鬼まつりだ。

 上半身は剥かれ、スカートの布も半分ほどしか残っていない。


 オレは由依を下ろしながら、指先をリーマンの脳天に向ける。

 指先がきらりと光った瞬間、リーマンは脳天に風穴を空け、どさりと倒れた。


「なに!?」


 いち早く反応したのは宅配業者の男だ。

 壁際まで一足飛びに下がる。


「神器持ちかい! イイネエ! ヒャハハ!」


 逆に突っ込んできたのは、昭和主婦っぽい女だ。


「やめろラタトスク!」


 宅配業者が制止するが、女は止まらない。

 鋭く伸びたツメを伸ばし、斬りかかってきた。

 1メートルはあろうかという10本のツメがオレを襲う。


 オレは両手の人差し指で大きく円を描き、そのツメを根元から全て斬り飛ばした。

 さらに腹部に拳で一撃。


 派手に吹き飛んだ主婦は空中で一回転、なんとか着地した。


「やるね! だけどォ!」


 ラタトスクと呼ばれた昭和主婦は、すぐさまツメを伸ばし、再び斬りかかってきた。

 だがオレがしたのは、指をパチンと鳴らすだけだ。


 ――ぼんっ。


 するとラタトスクの体は、オレとは反対側に血を撒き散らしながら破裂した。

 先ほど殴った際に送り込んでおいた魔力を爆発させたのだ。


「いてて……。ラタトスクを一瞬かよ」


 眉間に穴をあけたまま立ち上がったリーマンが、鬼瓦の首を後ろから掴み、ぶらりと持ち上げた。

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