第36話 4章:パパ活ですか? いいえ、援交です。(9) SIDE 鬼瓦

SIDE 鬼瓦


 まつりはオヤジに廃ビルの中へと無理矢理連れ込まれていた。

 何度も逃げようとしたが、ひょろい見た目からは信じられない力で無理矢理ひきずられ、手を後ろで縛られた。

 叫ぼうにも、口をしっかり手で押さえられた上に、あたりに人は見当たらない。


 廃ビルには先客がいた。

 宅配業者の格好をした若い男が一人、そして買い物かごに長ネギでもさしていそうな昭和の主婦っぽいパーマの女が一人。


 まつりの手首をつかんでいるオヤジを含め、街で見かけても何とも思わないであろう、普通そうな人達だ。

 コンクリートむき出しの何もないフロアの中心に、椅子に縛り付けられた若いOLがいなければだけど。


「この胸についた脂肪が美味しいのよね。ヒャハハ!」


 主婦っぽい女が、OLの大きな胸をもみしだきながら、にやりと笑った。

 やたらとテンションが高い。

 クスリでもやってるの?


「おいおい、釣ってきたのは俺なんだ。片方はよこせよ」


 宅配業者の男も、女と同じようにイヤな笑みを浮かべた。


 もしかしてまつり、この人達に犯されるの……?

 相手に女もまざっているのがわからないが、そういう趣味の人もいるだろう。


 やっぱ、援交なんてするんじゃなかった。


 後悔なんていまさら遅いと思っても、文字通り『遅い』のだ。

 こんなところ、誰も助けにきてくれない。

 彼らの手慣れた様子から察するに、いつもこんなことをしているのだろう。


「俺は自分で釣ってきたのを頂くからな。そっちはすきにしろよ」

「おいおい、釣ってきたヤツが優先なのは認めるが、三等分だからな」


 三等分? どういうこと?


「んん! んんんー!」


 OLはわめきちらしているが、猿ぐつわをかまされており何を言っているかわからない。


「それじゃあさっそく頂くとするか」


 そう言った宅配業者の男が、OLの首筋にがぶりと噛みついた。


「んんんー!」


 OLが苦痛の声を上げた。


 え……? 噛んだ? いや……首筋を喰い……ちぎった?

 なに?

 なにがおきているの?


 その先の光景をまつりは直視できなかった。


 彼らはOLを大ぶりのナイフで好きなように切り分け、喰べはじめた。


「おえええ……」


 その音と臭いだけで、何度も吐いた。


 バランスを崩し、自分のゲロのなかにつっぷしてしまう。

 腰が抜け、上手く起き上がることができない。


「さて、次はこちらだ」

「少しは『土産』にとっとけよ」

「十代は脂のノリがイマイチなんだよなあ」

「マニアックなヤツめ」


 口の周りを血でべったり汚した彼らが近づいてくる。


「ひ……やめ゛……い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」


 やっと絞りだせた悲鳴は、自分のものとは思えない、ガサガサにかすれたものだった。

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