第34話 4章:パパ活ですか? いいえ、援交です。(7)
由依はまずビルの壁を左右交互に蹴り、十階ほどの高さまで駆け上がると、月をバックに拳銃を構えた。
あれってデザートイーグルか?
拳銃に詳しいわけではないが、某ゾンビゲームに出てきたので知っている。
ハンドキャノンの異名を持つ、最強クラスの威力を持つ拳銃だ。
よりによってそんなもんを持ち出すのかよ!
――ガガガンッ!
高速三連射が、死体にかぶりつくダークヴァルキリーの後頭部にヒットした。
拳銃の扱い上手すぎでは!?
デザートイーグルは、威力が高い分、反動もはんぱないらしい。
神器の影響で上半身も多少強化されているとはいえ、空中で撃てるような代物ではない。
お嬢様だけに、きっと海外で練習したのだろう。
うん、そうに違いない。
日本でそれを振り回せることについては……あまり考えない方がよさそうだ。
だが事前に聞いていた通り、魔力の籠もっていない物理攻撃では、ヴァリアントにキズ一つつけることはできていない。
それでも、弾丸の衝撃は、ダークヴァルキリーの頭部を死体へと突っ込ませるには十分だった。
――ガァァァッ!
上空を見上げたダークヴァルキリーが、血まみれの顔で吠えた。
ダークヴァルキリーはその手に槍を出現させ、上空から降ってくる由依に向かって突き上げる。
由依は人間の目では捉えられないほどの速度で迫る切っ先に、つま先で軽く触れることでその軌道を逸らせた。
さらに来る二撃目の突きを身を捻って避け着地した由依は、しゃがんだ姿勢のまま、ダークヴァルキリーの下顎に拳銃の照準を定めた。
攻撃を避けられたダークヴァルキリーは、突き上げた槍をそのまま打ち下ろす。
石突きと呼ばれる、刃の反対側で由依の肩を突こうというのだ。
槍を半回転させるよりも早い攻撃だ。
――ガンッ!
由依はかまわず拳銃を発射。
弾丸はアッパーのようにダークヴァルキリーの下顎に命中。
傷こそ負わせられないものの、その衝撃はダークヴァルキリーを僅かにのけぞらせ、槍の軌道をブレさせる。
なるほど、拳銃はこのためか。
神器の影響で下半身以外も身体能力が多少強化されているとはいえ、由依の上半身は生身むき出しだ。
それをサポートする手段として用意したのだろう。
「今!」
由依は足払いを一閃させつつ跳ね起き、そのまま足をバレエダンサーのように高く振り上げた。
そして、受け身をとるダークヴァルキリーの脳天めがけて――
「エッジモード!」
蒼く輝く由依の足が振り下ろされた。
光の弧はダークヴァルキリーの肩口から胸をざっくりとアスファルトごと切り裂く。
――グアアァッ!
無理矢理首を『折って』頭部への直撃を免れたダークヴァルキリーが槍を横薙ぎにしつつ、ふらりと立ち上がった。
ばっくりと割れた傷口からは、紫色の煙が漏れ出ている。
頭が吹き飛んでも活動できたはずだが、わざわざ頭を庇ったということは、やはりダメージが大きいのか、視覚を目に頼っているのか。
「自爆はさせない!」
槍を避けて距離をとった由依は、再びダークヴァルキリーに肉薄する。
エッジモードを使った後でも問題なく動けている。
神器の改造は上手くいったようだ。
だがここで焦って突っ込むのは悪手だ。
自爆を『読んだ』といえば聞こえがいいが、他の選択肢を考慮していない。
ある意味、油断とも言える。
相手の魔力を注視していれば、自爆の準備をしていないことはわかる。
……あ、由依ってもしかして、魔力を『視る』ことができないのか?
由依は胴を斬るかのように、回し蹴りを繰り出した。
その蹴りをダークヴァルキリーは槍の柄で受ける。
受け止められたのは一瞬。
由依の脚は槍を真っ二つにし、そのまま脇腹へと迫る。
だがその一瞬が命取りだった。
首がだらりと折れたままのダークヴァルキリーが、無造作に由依へと一歩を踏み出した。
由依の蹴りは、威力の出る脛はヒットせず、膝が脇腹にめり込んだだけだ。
だけ、といっても普通の人間なら死んでいる威力だが。
ダークヴァルキリーは大きく陥没した脇腹を気にした風でもなく、そのまま由依に向かって倒れ込む。
「このっ!」
由依はそれを突き飛ばした。
ダークヴァルキリーの胴体は力なくたたらを踏むも、長くのびた首が由依へと迫る。
まるで妖怪ろくろ首である。
――ガンッ!
慌てて迫る頭を狙った発砲する由依だが、頭部は空中で軌道を変え、弾丸を避けた。
美しい顔に生えたダークヴァルキリーの鋭い牙が、由依の首筋へと迫る――。
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