第33話 4章:パパ活ですか? いいえ、援交です。(6)

「あれがそうね」


 オレと由依は、繁華街の路地にいた。

 高いビルに囲まれ、ギリギリ両手を広げられない狭さの路地。

 オレ達はその曲がり角から、『食事』中のダークヴァルキリーを見ている。


 喰われているのはギャルっぽい格好の少女だ。

 オレ達が到着した頃には、とっくに事切れていた。

 顔はここからではプロパンボンベの影になって見えない。

 もっとも、胴体と同様に食い散らかされているとしたら、家族でも判別できないだろうが。

 大通りからそれほど離れているわけではないのに、ヴァリアントが持つ人払いの効果で、周囲に人の気配はない。


「(こんなに毎日現れるものなのか?)」


 オレは由依に小声で問う。

 由依は体にフィットする黒いジャケットに、黒いミニスカート。その下にはもちろん黒タイツを着用している。

 明るいところで見ると逆に目立ちそうだが、パンク系と言えなくもないし、闇にまぎれるにはちょうど良い。

 あと、個人的にオレの好みである。

 そこはどうでもいいけど。


 一方のオレは、黒いTシャツにGパンだ。

 行動のしやすさ重視……と言いたいところだが、私服は似たようなものしか持っていない。

 高校生は平日制服で過ごすからね。仕方ないね。

 社会人になってもあまり変わらなかったがな……。


「(組織でも連中がどれくらいいるかは掴み切れていないの。でも、討伐報告は多くても月に数体よ)」

「(組織は連中をどうやってみつけるんだ?)」

「(主に、地元警察の行方不明や死亡情報から絞り込んでいく感じね。その情報をもとに分析した結果が私みたいな現場におりてきて、あとは足で探すの)」

「(そりゃ見つからんよなあ……)」


 喰われた人間の記憶はどんどん失われていくのだから、通常の捜査手法が通用しない。

 記録に少しでも残せるのは、全体のごく一部の情報だろう。

 おそらく殆どが、記録に残らず、捜査もされずに忘れ去られていくのだ。


「(とりあえず一人で戦ってみてくれ)」

「(新グングニルの試し切りってわけね)」


 由依の黒タイツの改造は、昼休みのうちに済ませてある。

 出力は変わらず、使用者への負担を激減させてある。

 ある程度の長期戦にも耐えられるだろうし、由依の魔力が続くなら大技も何度か撃てるだろう。


「(油断はするなよ)」

「(わかってる)」


 仲間がいるというのは一人で戦うのに比べ、圧倒的に戦力増強となる。

 しかし、自分より圧倒的に強い味方がいると、自覚なく油断が生じるのも避けようのない事実だ。


「(今日の課題は、無傷で倒すこと。そして、1体倒した後に一人でここから離脱できるだけの余力を残すことだ)」

「(おっけー。わかったわ)」

「(それじゃあレッスン1。地形を上手く使え)」

「(了解、師匠)」


 由依はびしっと敬礼をすると、グングニルを起動し、曲がり角から飛び出した。

 ミニスカートの下に装備していた拳銃を抜いて。


 はぁ!? 銃!?

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