第21話 3章:神って欲望にまみれたヤツ多いよな(4)

「ヤバイぞ、この神器ってやつ」


 オレの真剣な声を受け、まだその身に残る快感に身をよじらせながらも、由依が不安な顔を向けてきた。


「使用者の負担が全く考慮されてないんだ。こんなもの使ってたら、数年待たずに体内の魔力回路がぼろぼろになって死ぬぞ」


 どうりで、魔法が一般的ではない世界で作られたものの割に、出力が高いはずだ。

 あちらの世界では呪いの武具扱いされるレベルである。


「やっぱりね……」


 自らの死刑宣告に対し、由依はさして驚いた風でもなかった。


「知ってたのか」

「うん……。この神器、形は使用者に合わせて変わるんだけど、使用者はみんな短命なの。かなり強力な神器なのに、おかしいなって思ってたんだ。やっぱり、神器に殺されてたのね」


 コアに強力なヴァリアントの肉体の一部を使い、それと使用者の魔力を反応させて力を引き出している。

 そして、にわか知識で無理矢理回路を作っていやがる。

 完全にブラックボックスのまま、なんか動くから使っとけってところか……。

 どこの汎用人型決戦兵器だよ。

 こんなものを使ったら、新劇場版どころか、旧劇場版の完成も見られるか怪しいぞ。


「しかし、由依は社長令嬢だろ? よく親がこんな危険な神器の使用を許したな」

「その親が私に与えた使命なのよ」

「なんでそんな……」


 由依はゆっくり首を左右に振った。


「父(あの男)は、対ヴァリアント組織との繋がりを欲しがった。でも、東アジアの組織とのそれは叶わなかった。だから、活動資金に困っていた北欧系に目をつけたの」

「対ヴァリアント組織が裏から世界を操ってるとかそういうことか?」

「操ってるってのは言い過ぎだけど、強い影響力があるのは間違いないみたい。マンガみたいな話だけどね。父の会社は兄が継ぐから大丈夫。神器非適応でありながら適応者の血を持つ兄は手に入った。だから私は戦闘要員ということ」

「そんな……。でも、由依が死んだら、北欧系組織との繋がりが途絶えてしまうだろ」


 由依の母は生きているようだが、次の世代にも繋がりを残したいはずだ。

 いや、母が生きているということは、必ずしも神器に適応するとは限らないのか。


「神器非適応の子供ができれば問題ないってことか。娘を犠牲にしてまで異形と戦ったという評判も得られる」

「ロジカル……というより、冷静すぎるくらいの思考ね。なんだかカズがずっと年上に見えるわ」


 さすが幼なじみ、スルドいな。


 なんでそんな使命を受け入れたのかは……妹さんがヴァリアントにやられてるんだっんだな。

 「父親に利用されているだけでは?」という言葉は飲み込んだ。

 彼女自身もとっくにわかっていることだろう。

 その妹さんが本当に存在していたかは、やはり調べておく必要がありそうだ。

 結果を彼女に言うかはまた別の問題だが。


「とりあえず、その神器を改造してみるが、いいか?」

「できるの?」

「向こうの世界では、最終的に自分の武具は自分で作ってたからな」


 伝説級の武具でも、オレの能力に耐えられなかったのだ。


「じゃあお願いするわ」


 頷いたオレが再び由依の太ももに手を伸ばすと、黒タイツから一瞬、魔力が迸った。

 それと同じに、道場の入口に強力な魔力が出現した。

 なんだこの気配?

 魔力は強くなったり弱くなったりを繰り返している。


 オレと由依は、はっと顔を見合わせ、道場の入口を見た。

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