第22話 3章:神って欲望にまみれたヤツ多いよな(5)
道場の扉が勢いよく開け放たれた。
そこに立っているのは加古川だ。
スカしたイケメンの顔は、ぐにゃりと不自然に歪んだり戻ったりを繰り返している。
顔が歪むたび、彼から発せられる魔力が微弱な人間のものから、魔族のような巨大なものへと変わる。
この感じは……。
「なあ由依。ヴァリアントって、人間を依り代に顕現するのか?」
「そんな話は聞いたことないわ。突然異界から現れて人間を喰う悪しき存在で、それらは神話の存在の残滓を核にしてるという説が有力らしいのだけど……」
組織とやらが本当にそれだけしか把握していないとは考えにくい。
今の加古川のような状態を、これまで誰も見たことがないとは思えないからだ。
神器の適応者といえども、上から秘匿されている情報は、オレが思っているより多いということか。
加古川が現れたのと同時に、血の臭いが漂ってきた。
彼の手を見ると、そこには女生徒の生首がぶら下がっている。
あの首は……誰だ? そう……たしか……保健委員の……なんだ? 彼女に関する記憶がぼんやりしている。
名前はもともと覚えていなかった気もするが、加古川のとりまきをしていた様子を見ていたはずなのに、そのことすら上手く思い出せない。
生首を見て顔をしかめていた由依も、いぶかしげな顔をしている。
「その娘を喰ったな?」
「なん、な、なん、なんの、ことだだだだだ? ゆいちゃん、おいし、そう。たべ、たいたいたいたいたい」
加古川は気持ちの悪い声を発しながら、体のあちこちをびくんびくんと振るわせている。
「由依はモテるなあ」
「やめてよ……」
「神器の改造は後回しだな。とりあえず応急処置だけしておく」
ひとまず、由依自身の体の修復、そして神器への魔力供給を行った。
これでいったんは、由依への負担が減るはずだ。
由依は神器を起動し、加古川に向かって構えた。
「戦えるか?」
この問いは肉体的、能力的な意味の他に、もと同級生を場合によっては殺せるのかということだ。
「正直嫌いなタイプだけど、助けられるなら助けたい。でも、彼が他の誰かを殺すかもしれないなら、これ以上生かしておくことはできないわ」
そう言った由依の拳は小刻みに震えていた。
オレもかつて通った道だ。
ここは大きな一線である。
越えてしまえばもう戻れない。
迷いも恐れもあるのだろう。
それでも彼女は即答した。
命の価値と優先順位については、これまでさんざん考えてきたのだろう。
ならばオレから言うべきことは何もない。
「じゃまままじゃまをするなああ! せ、せふれに、やってもらおおおお、さ、んにににんでたのしももももも」
加古川が保健委員の首を床に落とすと、その首がギロリとこちらを向いた。
やがてその頭に、昨晩のダークヴァルキリーと同じサークレットが出現した。
さらに首の切り口から、にょろにょろと触手が生え、やがてそれが束となった体を形成していく。
同時に顔も内側からぼこぼこと形を変え、立ち上がったその姿はダークヴァルキリーそのものとなった。
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