第19話 3章:神って欲望にまみれたヤツ多いよな(2)

「勘違いするな。召喚じゃなくて生成だよ。昨日戦ったときにとったデータをもとに、オレの魔力で作ってみたんだ」


 昨晩戦いながら解析したデータなので、あの時見ていない技は再現出来ないけどな。


 オレはダークヴァルキリーの肩にぽんと手を置いた。

 だらんと腕を下ろし、死んだ魚のような目で虚空を見つめるダークヴァルキリーは、何の反応も示さない。


「それ……少なくともダークヴァルキリーより圧倒的に強くないとできないんじゃ……?」

「あの程度の敵ならな」

「たしかにダークヴァルキリーは北欧系ヴァリアントの中でも雑魚な方だけど……普通の人間にとってはライオンなんかよりよっぽど脅威なはず……」

「まあまあ。とりあえず、最強の技をぶち込んでみてくれよ」

「うん、やってみる。グングニル……起動!」


 由依は二本の指でミニスカートから伸びた黒タイツを履いた太ももを、横になぞった。

 すると、そこを起点とし、ルーン文字がタイツ上にまばらに輝き、足首に収束していった文字たちがフリスビーサイズの魔法陣を形成した。


「んっ……くぅ……あれ? 気持ち良いだけで、あまり痛くない……? それに……」


 由依が大ジャンプをすると、民家の二階はあろうかという天井まで一瞬で飛び上がった。

 くるりと体を反転した由依は、器用に天井へと着地。

 再び天井を蹴って、床へと戻って来た。


「グングニル、フルパワー!」


 由依が太ももに触れ、右足に体重をかけた構えを取った。

 全身を駆け巡り、純度と濃度を上げた魔力が右足へと集中していく。

 由依自身は魔法については詳しくないようだが、これは魔法の使い方の一つだ。


「はあああああああああ! 黄昏の崩壊(ラグナロクブレイク)!!」


 由依は夕暮れ色に輝く右足による後ろ回し蹴りをダークヴァルキリーの胸部にぶち込んだ。

 蹴りの衝撃がダークヴァルキリーの背中を抜け、衝撃波が道場の壁を叩いた。

 その瞬間、由依の足が触れた箇所からダークヴァルキリーの体に光のヒビが入り、岩のようにボロボロと砕け散った。


 右足をゆっくり下ろした由依は、もとの構えに戻った後、震える足をさすっている。


「この技を使ったあとって、全身はしばらく重くなるし、右足なんて数時間は動かなくなるのに……筋トレってすごい……? 」

「神器の負担にある程度耐えられるようになったのと、筋トレついでに体内の魔力回路も整えておいたからな」

「魔力回路?」

「体内の魔力の通り道だ。その黒タイツ型神器は、神器に蓄積された魔力を使用者に流して、常人以上の身体能力を出すみたいだな。さっきの必殺技は、体内で練った魔力を強引に敵に流し込み、相手の魔力回路をズタズタにしたあと、相手の魔力も利用して肉体を崩壊させるってとこか。なかなかすごい魔道具だな」


 魔法が普及していないはずなのに、どうやって作ったのか気になるところだが。

 一部の人間が情報を独占している?


「見ただけでそこまでわかるの?」

「触ればもっと詳しく解析できるぞ」


 オレがそう言うと、


「いいよ、触って……」


 少し顔を赤らめた由依が、踵をあげて太ももを差し出してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る