第18話 3章:神って欲望にまみれたヤツ多いよな(1)

  ■ 3章 ■



「さあ! お願いします師匠! 押忍!」


 どこから取り出したのか、ぼろぼろに使い古された空手の道着に身を包んだ由依が、びしっと礼をした。

 そでは千切れてボロボロになり、ノースリーブ状態だ。脇からはちらりと大きな胸の膨らみが見える。

 さらに、下半身は膝上で千切れており、トレードマークの黒タイツが覗いている。

 板張りの上でも滑ったりはしないらしい。

 さすが神器である。

 そんなところで感心されても、神器も嬉しくないだろうが。


 ここは白鳥家の道場。

 昨晩のオレの戦いを見た由依が、特訓をしてくれとせがんできたのだ。

 というか、この家は敷地内に道場まであるのかよ。

 一見普通の道場だが、壁や床には強化素材がふんだんに使われている。


「特訓と言ってもなあ……。体をしっかり鍛えて、死線を何度もくぐれば、勝手に強くなれるぞ」

「参考にならないにもほどがあるわ……。体を鍛えるってどうするの? ジムでできるものは一通りやってるわよ」


 たしかに、しなやかかつ無駄のない筋肉がついている。


「んー、一流アスリート止まりだな」

「悪口みたいに言われた!?」

「人間の域を超えた質の筋肉をつけないと、自分の攻撃に体がついてこない」

「人間を超えるって……筋肉ダルマになってもスピードが落ちるだけだって、金髪になる宇宙人も言ってたわよ」

「少年マンガにも詳しいな」

「なにか技のヒントがないか色々読み漁ったから」

「そこでマンガに頼るなよ」


 と言いつつ、あちらの世界でオレも、意表の付き方はマンガやアニメを参考にしていた。

 あくまで自力があった上でのアクセントだがな。


「問題は量じゃなくて質だ。ちょっと試してみるか?」

「何を?」

「筋トレ」

「んっふふー。筋トレにはちょっと自信があるんだからね」



 ――三十分後。



「はぁ……はぁ……もうゆるしてくださいしんでしまいます……あふっ……」


 由依は床にうずくまり、びくんびくんと震えている。

 彼女に施したのは、オレが月の裏側でやった筋トレをちょっと軽くしたものだ。

 最後にヒールをかけて終わりにするか。


 オレが由依の体に手をかざすと、彼女の体をぼんやりと温かい光が包んだ。


「うぅ……回復魔法ってすごく気持ち良いんだけど、筋繊維の修復が痛すぎてクセに……じゃなかった、トラウマになりそう……」

「これを二十四時間、一週間ほど続けると、即席で魔族から逃げられるくらいの肉体が作れる」

「それ死んじゃわない!? というか、魔族ってすごいのね。こっちの世界にいなくてよかったわ」


 魔族に狙われた村人を助けた時、村の若者全員にこの筋トレを施したことがあったが、阿鼻叫喚地獄絵図だったな。

 その村から、魔王討伐のパーティーメンバーの一人が出たりもしたが。


「さっき由依が言ってたマンガだって、主人公達は死にかけたところから復活して強くなるだろ? それと同じだって」

「マンガと一緒にされても困るよ!?」


 そこは冷静になるのかよ。


「筋トレは毎日少しずつやっていけばいいさ。とりあえず、由依の実力がみたいな。じゃあ……」


 オレが口の中で小さく呪文を唱えると、床に出現した魔法陣から、昨晩戦ったダークヴァルキリーが現れた。


「なんでダークヴァルキリーを召喚できるの!? まさかあなた……カズに化けた上級ヴァリアント!?」


 大きく飛びのいた由依が、ダークヴァルキリーに向かって身構えた。

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