第5話 さあ、裁きを受ける時間です

あの女は明らかに震えている。僕は出来るだけ優しい声で、あの女に話しかけた。




「エミリー・コックス。君がどんな目的で魅了魔法を使ったのか、ある程度の調べは付いている。君も分かっていると思うが、魅了魔法を使えば、一族全員極刑だ!ただ、君がなぜ魅了魔法を使ったのか、ここですべて話してくれたら、命だけは助けてやろう」




僕の提案に、アズーリアとオリヴァーは目を丸くする。そして、当のエミリーは命が助かると思ったのか、急に元気を取り戻した。




そして、ペラペラと話し始めた。いつもみんなから注目されていて、自分が欲しいものを全て持っているシャーロットが憎いと以前から思っていた事、でも、男爵令嬢の自分には、シャーロットにかなわないと言う現実にイライラしていた事。そんな中、魅了魔法を父から提案されたこと。




これさえあれば、シャーロットの持っているものを全て奪えると思った事。そして、全てを奪われたシャーロットが、絶望に打ちひしがれる姿が見れるのを楽しみにしていたと言う事を、丁寧に説明してくれた。




大方は分かっていたが、本人から聞くと更にイラつくな!隣で話を聞いてたオリヴァーも爆発寸前で、何とか魔力を暴走させない様、必死で押さえている。そりゃそうだ、愛する妹をまさか陥れようとしていたなんて聞いて、怒らない兄なんかいないだろう。




ましてや、オリヴァーはシャーロットを溺愛している。まあ、僕ほどシャーロットを愛している人はいないけれどね。




それにしてもこの女はバカなのか。ここまで正直に話すなんて…




「さあ、正直に話したわよ!私の命は保証してくれるのよね」




エミリーが鼻息荒く僕に詰め寄った。周りからは、怒りと呆れににじんだ空気が漂っているのだが、この女はそんな空気もお構いなしの様だ。どれだけ図太いんだ…




「ああ、命だけは助けてやろう。とにかく、今日の取り調べはここまでだ」




僕はそう言うと、取調室から出た。




「殿下!あの女の命を助けるとはどういうことですか!あの女はシャーロットを陥れようとしたのですよ!あんな女、生かしておけない!今すぐ極刑に処すべきだ!」


顔を真っ赤にして怒り狂うオリヴァー。まあ、ごもっともな意見ではある。




「殿下、オリヴァーの言う通りです。魅了魔法を使おうとしただけでなく、王太子殿下の婚約者を手に掛けようとしたのですよ。やはり極刑が妥当かと」




比較的冷静なアズーリアも、さすがに僕の意見には反対の様だ。




「オリヴァー、アズーリア。僕はあの女を極刑にするなんて、生ぬるいと考えているんだよ。あの女には、この世の地獄を見てもらうつもりだ!だから、どうか僕のやることを黙って見ていて欲しい」




僕の言葉に、目を丸くする2人。そうだ、僕は14年もの間、生き地獄を味わって来た。何度死んだ方がましと思ったか…あの女にも、同じ思いをさせてやる!




僕は一旦2人を待たせ、愛しのシャーロットの元へと向かう。そろそろ王妃教育が終わることだからね。僕が迎えに行くと、ちょうど王妃教育が終わったところだった。




そのまま公爵家の馬車へとエスコートした。




「リアム様、今日は家に帰してくれるのですか?」


いつも僕が帰るな!と言って、シャーロットを引き留めて居るせいか、あっさり帰してもらえる事に疑問を抱いたようだ。




「シャーロット、そう言うってことは、今日は王宮に泊まってくれるのかい?」


僕の言葉にハッとしたのか、慌てて馬車へと乗り込んでいった。正直、シャーロットと離れるのは辛いが、今はあの女の後始末を行うのが先だ。それに、もう少しすればシャーロットは僕から逃げられなくなるしね。




そう、僕はあの女の件が片付いたら、ある計画を考えている。でも、今はとにかくあの女だ。




僕はシャーロットを送ると、すぐにオリヴァーとアズーリアの元へと向かった。




「待たせてすまない。今から父上に報告に行く。二人も付いて来てくれるか?」




「「はい、もちろんです」」




三人で父上が待つ執務室へと向かった。執務室に入ると、どうやらまだ不満を抱いていたウィルソン公爵に怒られているようで、小さくなっている父上を見つけた。




父上は、僕を見つけると嬉しそうにこっちに向かってくる。正直、大の大人の男性に嬉しそうに近づいてこられても、気持ち悪いだけだが…




「父上、エミリー・コックスの取り調べが終わりました。ウィルソン公爵も一緒にいいだろうか?」




僕の問いに、頷くウィルソン公爵。




「すまないが、アズーリア。君から今回の取り調べの報告をしてもらってもいいだろうか。僕が話すと、怒りで魔力が暴走してしまいそうだからね」




そう、あの胸糞悪い話をするなんて、とてもじゃないが無理だ。もちろん、オリヴァーも無理だろう。




「わかりました、殿下!では私から報告いたします」


アズーリアがあの女が話したことを、丁寧に報告していく。その報告を聞き、見る見る顔が赤くなり、怒りで震えるウィルソン公爵。もちろん、オリヴァーも真っ赤な顔をしている。




ドン!!!


「なんて恐ろしい女なんだ!私の可愛いシャーロットを、そんなひどい目に合わそうとしていたなんて許せない!!!明日にでも公開処刑だ!!!」




机を叩いて怒り狂う公爵。隣でオリヴァーも頷いている。




「ウィルソン公爵、落ち着いてください!今回の件は、全て僕に任せてください!僕の最愛のシャーロットを傷つけようとしたんだ!ただでは済まさない!父上もそれでいいですね?」


無意識に怒りのオーラを出していたのか、ウィルソン公爵も同意してくれた。




さあ、後はあの女を地獄に突き落とすだけだ。




「おい、例の計画は順調何だろうな?」


僕は側近の1人でもあり魔術師の男に声を掛ける。




「はい、滞りなく進んでおります。先方はいつでも引き取りに来ると言っております」




「そうか、わかった」




よし、すべて計画通りだな。後は、あの女の家族が投獄されるのを待ってから、地獄へと突き落とすとするか。






そして数日後、ついにあの女の両親と魅了魔法を提供した魔術師が投獄されたとの報告を受けた。僕は1人で地下牢へと向かう。そして、地下牢でうずくまっているエミリー・コックスの元へとやって来た。




「やあ、ご機嫌はどうだい?」


僕が声を掛けると、ゆっくり顔をあげるエミリー。




「殿下、本当に命だけは助けてくれるんですよね」


僕の足に縋りつくエミリー。蹴とばしたい衝動を必死に抑えて、僕は話し始めた。




「ああ、もちろんだ。君とその家族は、明日隣国の奴隷商に売られることが決まったよ。」


僕はにっこり笑ってそう伝えた。




「隣国の奴隷商ですって…そんな、あそこは残忍で有名なところよ。そんなところに売られたら、私たち何されるかわからないわ!」




隣国の奴隷商と言えば、ここらの大陸ではかなり有名だ。残忍で一度奴隷として売られたら、もう人間としての生活は二度と出来ない。そして、まさに死んだ方がましだと言うくらい、過酷な生活を強いられる。そう、まさにこの世の地獄と言っても過言ではない場所だ。




「そうだね、でも命を助けると言う約束は守ったのだから、感謝してほしいくらいだな」




僕の言葉に、怒りをにじませるエミリー。




「ふざけないでよ!あんなところに行くくらいなら、まだ処刑された方がましだわ!そうよ。処刑しなさいよ」




ヒステリックに叫ぶエミリー。僕はその姿を見て、怒りが込み上げてきた。




「うるさい!僕はお前のせいで14年もの間、生き地獄を味わって来たんだ!それもこれも全部お前のせいだ!」


我を忘れエミリーを蹴り飛ばし、踏みつけた。




「僕が味わった苦痛以上の苦痛を、君にはこれから死ぬまで味わってもらうよ!そうそう、自死出来ないように、特殊なリングを君にプレゼントしよう。僕からの餞別だ」




絶望に満ちた顔を浮かべるエミリーの腕に、そっとリングを付けた。これでお前は、地獄から逃げられない。




「それじゃあ、せいぜい頑張ってね」


僕はそう言うと、地下牢を後にしたのであった。


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