第4話 エミリー・コックス、覚悟しろ!
翌日目が覚めると、シャーロットの分身は消えていた。まさか昨日の出来事は夢だったのか?ものすごく焦って飛び起きたが、昨日と同じくばあやが起しに来たのでホッとした。
ばあやに身支度を手伝ってもらい、学院を行く準備を始める。学院に行く前に、魔術師を部屋に呼んだ。そう、エミリー・コックスを確実に捕まえる為、魔術師に指示を出すためだ。
「いいか、あの女は数日以内に確実に僕に接触してくるはずだ。きっとその時に魅了魔法がかかった水晶を持っているはずだ。いいな、僕が合図したらすぐに取り押さえろ。そして、水晶を確保するんだ」
前回の生では、あの女は僕が1人になったタイミングを見計らって話しかけてきた。きっと、今回もそうするだろう。
「わかりました、殿下。そうそう、殿下、これは身に着けておいてください」
魔術師にリングを渡された。
「これは、魔力無力化リングか?」
「はい、このリングを付けていれば、相手の魅了魔法も防ぐことが出来ます。ただ、殿下も魔法が使えなくなりますので、学院以外では外すことをお勧めします」
なるほど、これがあれば万が一あの女に魅了魔法を掛けられても、防げると言う訳か。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
とにかく、あの憎たらしい女を地獄に突き落とすことが先決だ。学院に着くと、早速シャーロットの元に向かう。
「シャーロット、おはよう。会いたかったよ!」
僕はすぐにシャーロットを抱きしめる。数時間ぶりのシャーロット。今日も温かくていい匂いがする。
「もう、リアム様。学院内で抱き付くのはおやめください」
シャーロットはそう言って怒っているが、僕の腕から抜け出す気配はない。何だかんだで、こんな僕をシャーロットも受け入れてくれているようだ。
ん?なんか視線を感じる。
ふと、視線の先を見てみると、そこにはあの憎らしい女、エミリー・コックスが目に入る。
見れば見るほど怒りが込み上げてくる。つい、シャーロットを抱きしめる手にも力が入ってしまった。
「リアム様…ぐるじい…」
シャーロットから抗議の声が上がる。いけない。僕は慌てて力を緩めた。
「ごめんね。シャーロット」
僕が謝ると、「もう、リアム様は!」と言いつつ、にっこり微笑んでくれた。本当にシャーロットは天使の様だ。
僕はその日もずっとシャーロットの側を離れなれず、幸せな時間を噛みしめた。そして数日が過ぎたある日。
僕が先生の用事を済ませて急いで教室に戻ろうとした時、あの女が声を掛けて来た。
「リアム殿下、少しよろしいでしょうか?」
ついに来た!
僕は極力冷静を装い、ゆっくりとあの女の方へと振り向く。
「僕に何か用かい?」
次の瞬間、あの時と同じように僕に魅了魔法が掛かった水晶を見せて来た。でも今回の僕は、お前の思い通りにはならない!
「今だ、お前たち!この女を捕まえろ!」
僕の掛け声で魔術師と護衛騎士が一斉に出てきて、あっという間にエミリーを取り押さえた。
「ちょっと、何をするの?私が何をしたと言うの?」
魔術師はすぐにエミリーが持っていた水晶を調べる。
「リアム殿下!殿下がおっしゃっていた通り、やはり魅了魔法が掛かっています。」
そりゃそうだ。僕は1回目の生で実際この女に魅了魔法を掛けられたのだからな!
「そうか、とにかくこの女を王宮の地下牢に入れておけ。取り調べは僕も一緒に行う。それと、男爵家も片っ端から調べろ」
僕の指示に、魔術師たちが動く。エミリーは護衛騎士によって連れて行かれた。
とりあえず、あの女の捕獲に成功し、ホッとする。
「リアム様、一体何が起こったのですか?」
シャーロットが慌ててこっちに走ってくるのが見えた。周りには沢山の生徒がおり、皆騒めいている。
「皆、騒がせてすまなかった。どうか、教室に戻ってくれ。シャーロットも教室に戻ろう」
僕はそう言うと、シャーロットの腰に手を回し、教室へと連れて行く。
授業が終わり、今日もシャーロットと一緒に王宮へと向かう。
「リアム様、エミリー様が騎士に連れて行かれたようですが、一体何があったのですか?」
馬車の中で不安そうな顔をしているシャーロット。そんなシャーロットを抱きしめる。
「シャーロット、あの女は禁断魔法でもある、魅了魔法を僕に掛けようとしたんだ。だから捕まえた。」
僕の言葉に目を見開くシャーロット。
「それで、リアム様は大丈夫だったのですか?」
「ああ、事前に情報を掴んでいたからね。何事もなくあの女を捕まえることが出来たよ」
僕の言葉にホッとするシャーロット。
「でも、どうして禁断魔法でもある魅了魔法を使ったのかしら?バレれば極刑は免れないのに…そうだわ。エミリー様もやっぱり極刑になってしまうの?まだ14歳なのに、さすがに可愛そうだわ!」
ああ、シャーロット。君はどこまでも優しい子なんだね。こんな優しい子を、あの女は!僕は体中から怒りが沸き上がるのを必死に抑え、シャーロットの頭を撫でた。
「確かに今回は未遂で終わったから、父上には極刑は勘弁してやって欲しいと伝えてみるよ」
そう、あの女には簡単に死なんて与えるつもりはない。これから先、死んだ方がましだと思うくらい、生き地獄を味合わせてやるんだ!
そんな僕の思いとは裏腹に、「リアム様、どうかお願いします」と、にっこり微笑むシャーロット。
シャーロットを王妃教育の部屋まで送った後、すぐに父上の執務室へと向かう。そこには、父上だけでなく、父上の右腕でもあるシャーロットの父、ウィルソン公爵の姿もあった。
「リアム、でかしたぞ!まさか、コックス男爵令嬢が本当に魅了魔法を使ってくるとはな。今男爵家も調べさせているが、どうやら魅了魔法だけでなく、呪いの魔法に関する証拠も出て来たらしい」
そりゃそうだろう。あの女は、僕達に魅了魔法を掛けただけでなく、母上までも殺そうとした恐ろしい女だ。
「父上、コックス男爵家はやはり極刑ですか?」
「ああ、禁断魔法を王太子であるお前に使おうとしたのだからな。一族全員公開処刑が妥当だろう」
やっぱりそうなるか。
「父上、今回のコックス男爵家の処罰を含め、僕にすべて任せてはいただけないでしょうか?この前お話しした通り、僕を操りシャーロットを亡き者にしようとしていたという話もあります。」
「何!シャーロットをだと!どういう事ですか陛下!そんな話、私は聞いていませんよ!」
シャーロットと名前が出たとたん、父上に詰め寄るウィルソン公爵。
「あの時は確かな証拠がなかったから、要らぬ心配をさせない様公爵には話さなかったんだ。すまん…」
「シャーロットの命に関わることを、私に話さないとはどういう事ですか!今回リアム殿下が未然に防いだから良かったものを!一歩間違えれば、シャーロットが危険にさらされていたかもしれないのですぞ!」
シャーロットを溺愛しているウィルソン公爵。顔を真っ赤にして怒り狂っている。このままここに居るとめんどくさそうだ。
「父上、とにかく今回の事は僕に任せてください。それでは、僕はエミリー・コックスの取り調べがあるので失礼します」
「あ…ちょっと待て…リアム…」
父上の悲しげな声が聞こえたが、とりあえず無視し、僕は取調室へと向かった。取調室に入ると、シャーロットの兄、オリヴァーと僕の側近でもあるアズーリアが既に待っていた。基本的に取り調べには貴族が2名以上立ち会うのが決まりだ。
そのため、今回はこの2人に依頼したのだ。ちなみにアズーリアはシャーロットの友人でもあるアリーアの兄だ。
「待たせてすまなかったな。話は大体聞いていると思うが、あの女が魅了魔法を使った。今から取り調べを始めるが、良いかな?」
「「もちろんです、殿下」」
よし、それじゃあ、あの女を呼ぶか。僕は近くに待機していた護衛騎士に、あの女を連れてくるように伝える。
しばらくすると、鎖に繋がれたあの女がやって来た。さあ、いよいよ取り調べスタートだ!
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