第3話 今回は絶対に失敗しない!

シャーロットを送り届けた後、僕は父上の元に向かう。


「父上、お話があるのですが、よろしいでしょうか?」


父上はいつも通り、執務室に居た。



「どうしたんだ、リアム。お前が私を訪ねてくるなんて珍しいな」



「父上、実は学院内で禁断魔法でもある、魅了魔法を使って僕を操ろうとしている者がいると言う話が入ってきています」



そう、僕は国王である父上に、あたかも魅了魔法の情報を掴んだかのように見せかけ、協力を依頼することにした。正直、僕1人で対応したかったが、絶対に失敗できない!だから、父上を頼ることにしたのだ。



「何だって?それは本当なのか?それで、誰が使おうとしているんだ!」


父上は信じられないと言った表情をしている。そりゃそうだろう。魅了魔法なんて使ったことがバレれば、即処刑だ。よっぽどのことが無い限り、誰も使わない。



「はい、本当です。男爵令嬢のエミリー・コックスです。どうやらあの女は、数日以内に僕に近づき魅了魔法を掛ける気でいるようです。そして、僕の婚約者のシャーロットの命も狙っているという情報もあります」



シャーロットの命を直接狙っている訳ではないが、あの女は嘘を付いてシャーロットを処刑しようとした。だから、僕の言っていることは間違ってはいない。



「何だって!それが本当なら、大変なことになるぞ」


父上が頭を抱えている。



「父上、あの女は学院内で僕との接触を図ってくると思われます。どうか、学院内に優秀な魔術師を何人か付けていただけないでしょうか?僕に魅了魔法を掛けようとしたところを、現行犯で捕まえたいと思います!」



現行犯で捕まえれば、言い逃れは出来ない。絶対にあの女を捕まえて、地獄を見せてやる。



「わかった!お前の言う通りにしよう。そうだ、お前が万が一魅了魔法に掛かってしまっては大変だ。今すぐ、魔術師を呼んで対策を練ることにしよう。」


父上は早速王宮に居る魔術師を呼んで、魔術師たちに説明をする。



「リアム殿下、その話は本当ですか?正直信じられません。魅了魔法を使う者がいるなんて!」


確かに信じられないかもしれない。普通なら考えられないことだ。



「確かにリアムが言っている事は、にわかに信じがたい話だ。でも、万が一本当だとしたら大変だ。下手をすると、王国が乗っ取られてしまうかもしれない。そうならない為にも、対策を練る必要があるのだ」



父上の言う通りだ。現に前回の生では、あの女は僕たちを思うがまま操っていた。思い出しただけでも腹が立つ!



「わかりました。では、明日から私たちは学院内に潜入し、殿下を見守ることにしましょう。」



とりあえず、これでエミリーの方は大丈夫そうだ。とにかく、あの女だけは許さない!絶対に!



そうだ、そろそろシャーロットの王妃教育が終わる頃だな。僕はすぐにシャーロットが王妃教育を行っている部屋へと向かう。




部屋に着くと、ちょうど部屋から出て行こうとしているシャーロットが目に入った。



「シャーロット、今終わったのかい?」



僕が声をかけると、嬉しそうにこっちにやってくるシャーロット。その笑顔がたまらなく可愛い。



「はい、リアム様。迎えに来てくれたのですね。」


にっこり微笑むシャーロット。つい可愛くて抱きしめてしまう。あの頃の僕は、これが当たり前だと思っていた。でも、一度失ってみると、こうやってシャーロットを抱きしめられるのも、何だか奇跡の様に感じる。



二度とシャーロットの温もりを奪われたくない!その為にも、あの女を絶対に捕まえなければいけない。



「リアム様。あの、そろそろ離して。使用人たちが見ているわ」


恥ずかしそうに呟くシャーロット。見たい奴らは見てもらって結構。と、言いたいところだが、あまりベタベタしてシャーロットに嫌われたら大変だ。仕方なく、シャーロットを開放した。



「シャーロット、今日は天気がいいし、少し庭でお茶をしよう」


僕はシャーロットの手を取り、庭へと向かう。もう、10年以上庭になんて出たことが無かったからか、なんだかとても懐かしい気持ちになった。



「シャーロット、さあ僕の隣に座って」


僕はシャーロットを隣に座らせると、すかさず腰に手を回す。なんだかシャーロットに触れていないと、落ち着かない。また僕の側からいなくなってしまうのではないかと、気が気ではないのだ。



それに、シャーロットの温もりに触れていると、とても落ち着く。僕は久しぶりにシャーロットとのお茶を楽しんだ。そして、シャーロットが公爵家に帰る為、馬車へと乗り込む。



このままシャーロットと別れたら、また二度と会えなくなってしまうかもしれない…。もしかしたら、この幸せな時間は僕が見ている夢で、目が覚めたら1人ぼっちになるかもしれない。そう思った時



「嫌だ!シャーロット。行くな!」


僕は無意識に叫んでしまった。びっくりして振り向くシャーロット。僕はシャーロットの腕をつかみ、そのまま自分の腕の中に閉じ込める。もう二度と失いたくない!絶対に、離したくない!



「シャーロット、今日は王宮に泊まって欲しい。どうしても、離れたくないんだ!」


僕の言葉に、少し困った顔をするシャーロット。



「リアム様。今日はどうされたの?困ったわね」


そう言うと、シャーロットはくすくす笑っている。



「シャーロット、僕は君だけを愛している!どうかずっと僕の側に居てほしい!」


僕はさらに強くシャーロットを抱きしめ、シャーロットの柔らかい髪に顔を埋めた。



「リアム様、私もリアム様を愛しているわ。だから、あなたから離れる事なんて無いわ。でも、このまま離してくれないのは困ったわね。そうだわ」


シャーロットは僕の腕からスーッと抜け出ると、一気に魔力を込めた。



「これは?」


目の前にはシャーロットに瓜二つの女の子が現れる。



「り・あ・む・さ・ま」


女の子がしゃべった。何なんだこれは?



「う~ん、あまりうまくはしゃべれないのね。それにちょっと小さいわ」


シャーロットが不満げに呟く。



「でもまあ仕方ないか。リアム様、この子は私の分身です。魔力を使って生み出したのよ。この子を私だと思って、お部屋に連れて行って。そうすれば明日まで寂しくないでしょう」


にっこり笑うシャーロット。どうやら僕の為に出してくれたらしい。



「り・あ・む・さ・ま・す・き」


小さなシャーロットの分身が、僕に抱き着いてきた。確かにシャーロットみたいで可愛い。


でも…



「シャーロット、僕は本物のシャーロットがいい!」


再びシャーロットを掴み、腕の中に閉じ込めた。



「リアム様、明日また会えますから!」


そう言うと、僕の頬に口付けをしたシャーロット。初めてシャーロットから口付けされた!嬉しくて、つい腕を緩めてしまった。その隙にシャーロットは馬車に乗り込み、そのまま公爵家に帰ってしまった。



クソ、逃げられたか!


残されたシャーロットの分身を抱きかかえ、自室に戻る。それにしてもシャーロットによく似ている。肌の触れ心地もシャーロットにそっくりだ。



僕はシャーロットの分身を抱きしめて、その日は眠りについた。

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