第2話 目が覚めると貴族学院入学式当日に戻っていました

「リアム殿下、いつまで寝ていらっしゃるのですか?早く起きてください!」


誰かが僕を揺すっている。


僕はゆっくりと目を開ける。



見覚えのある天井。あれ?僕、地下牢で魔力を放出して、命を落としたはずなのに、どうしてまだ生きているのだろう?



「リアム殿下、いい加減に起きないと、貴族学院の入学式に遅刻いたしますよ!」


貴族学院の入学式?どういうことだ?



ハッと声の方を向くと、10年前に亡くなったはずの、ばあやの姿が!どういうことだ?僕は急いで起き上がり、鏡をのぞく。



あれ?僕、明らかに若い。


「ねえ、ばあや、僕はいくつ?」



「ハ~、まだ寝ぼけていらっしゃるのですか?リアム殿下は今14歳でいらっしゃいますよ。そして、今日は貴族学院の入学式です。新入生代表で挨拶をすることになっているとお伺いしておりますよ。そんな殿下が遅刻をしては、皆に笑われてしまいます。」



ばあやはそう言うと、僕を着替えさせ始めた。真新しい制服に袖を通す。よくわからないが、何かの拍子で14歳に戻ってしまったらしい。



待てよ!と言う事はシャーロットもまだ僕の婚約者なのか?


「なあ、ばあや。シャーロットは?シャーロットはまだ僕の婚約者なのかい?」


僕はばあやに詰め寄る。



「リアム殿下、どうしたのですか?シャーロット様はリアム殿下の婚約者ですよ。“まだ”だなんて、シャーロット様と婚約破棄でもなさるおつもりですか?」


呆れた顔のばあや。


「そうか、シャーロットはまだ僕の婚約者なのか」


こうしちゃいられない。とにかく、シャーロットに一刻も早く会いたい。僕は急いで準備をし、王宮の馬車へと乗り込む。父上と母上が何か叫んでいたが、今はそんな事どうでもいい。とにかくシャーロットに会いたい!



王宮から学院までは馬車で10分たらず。でも、この10分ですら待ち遠しい。早く学院に着いてくれ。



そして、やっと学院に着いた。シャーロット、どこだ?どこに居るんだ?辺りを必死に見渡す。すると、居た!



他の令嬢たちと楽しそうに会話をしているシャーロットを見つけた。僕は一目散にシャーロットの元へと向かう。



「シャーロット!」


僕はそのまま、思いっきりシャーロットを抱きしめる。温かくて柔らかいシャーロットの感触。夢にまで見たシャーロットが、今この腕の中にいる。夢じゃないよね。夢なら覚めないでくれ!



「リアム様。どうされたのですか?」


久しぶりに聞くシャーロットの声。この声もまた愛おしい。ダメだ、離したくない!しばらく抱きしめた後、僕はゆっくりとシャーロットを開放した。



困ったように首を傾げているシャーロット。


「ごめんね。ついシャーロットが可愛くて」


僕がそう言うと嬉しそうに笑ったシャーロット。シャーロットの笑顔を見たのはいつぶりだろう。



「シャーロット、さあ、一緒に入学式の会場に行こう」


僕が手を差し出すと、シャーロットがその手に自分の手を重ねる。ヤバい。幸せすぎる!それよりも、周りの男共。シャーロットを見つめるな!シャーロットは僕の婚約者だ。



急に周りの視線が気になった僕は、シャーロットの腰に手を回し、自分の方に引き寄せた。


「リアム様…恥ずかしいですわ」


シャーロットが頬を赤くして呟く。



そんなシャーロットも愛おしくてたまらない。幸せを噛みしめながら、入学式の会場へと向かう。


「リアム様。新入生代表で挨拶をなさるのでしょう?頑張ってくださいね」


シャーロットが僕に向かって、にっこり微笑む。とっさに抱きしめたい衝動に駆られたが、入学式の会場ということもあり、先生や生徒たちも多数いる。



僕は、グッと我慢した。そうだ、これから先ずっとシャーロットと一緒に居られるんだ。今は我慢しよう。



そして、入学式も無事に終わり、各自教室へと向かう。もちろん、シャーロットと同じクラスだ。とにかくシャーロットは美しく優しい。男共を近づけないようにしないと!



僕はシャーロットの腰に手を回し、教室へと向かった。教室に入ると、1人の女が目に入った。



僕は体中から怒りがこみ上げる。そう、僕からシャーロットを奪った憎き女、エミリー・コックスだ!



そうか、あの女も同じクラスだったな!そう言えば、今から数日後にあの女に魅了魔法を掛けられ、僕の人生は狂わされる。そんなことは絶対させない。



もう二度とシャーロットを失いたくない!それに、何よりもシャーロットを傷つけたくない。エミリー、お前には恨みしかない!前回の生ではシャーロットを失ったショックで、あまりあの女に怒りをぶつけることが出来なかった。でも、今回は違う!



あの時の恨み、今回しっかりと晴らさせてもらうぞ。



「リアム様、そんなに怖い顔をして、何かありましたか?」


隣にいたシャーロットが不安そうな顔で僕の顔を覗き込む。いけない、つい怒りに身を任せてしまった。



「シャーロット、何でもないよ!さあ、席に着こう」


僕は再びシャーロットの手を取り、彼女の席まで連れて行く。



あの女が僕に魅了魔法を掛けてくるまでに、後数日ある。それまでに、何とか作戦を考えないと。



今日は入学式ということもあり、学院は午前中までだ。


「シャーロット、今日も王妃教育があるのだろう?一緒に王宮まで行こう」


そう、シャーロットは王妃教育を受ける為、毎日王宮へとやってくるのだ。実はほぼ王妃教育は終わっているのだが、僕が教育係に無理を言って、シャーロットが王宮に毎日来るように仕向けた。



あの時の僕も、随分シャーロットに執着していたもんな。でも、一度シャーロットを失った今、僕の執着はさらにグレードアップした!


あの忌まわしい女の事も考えないといけないが、シャーロットともずっと一緒に居たい!とにかくシャーロットとの時間を大切にしたんだ!


僕はシャーロットの手を引き、王宮の馬車へと乗り込む。もちろん、僕の隣にはシャーロットを座らせた。



改めてみると、本当にシャーロットは美しい。初めて会ったときはまだ幼い美少女だったが、今は大分大人っぽくなり、さらに美しさに磨きがかかった。僕はそっとシャーロットの銀の髪を指ですくう。サラサラの髪は、僕の指からあっという間に逃げて行った。



「あの、リアム様。今日はどうされたの?そんなに見つめられたら恥ずかしいわ!」


顔を赤くしたシャーロットが呟く。もう愛おしくてたまらない。



僕はシャーロットをギューッと抱きしめ、頬に唇を落とす。さらに顔が赤くなるシャーロット。本当に可愛い。僕は何度も何度もシャーロットの頬っぺたに口付けをし、頬ずりをした。周りから見たら、気持ち悪い男かもしれないが、今の僕にはもう止められない。



もう一層の事、シャーロットを僕の部屋に監禁してしまおうか。そうすれば、ずっと一緒に居られる!そんなことすら考えてしまう。



そうこうしているうちに、王宮に着いてしまった。僕は仕方なく王妃教育の行われる部屋まで、シャーロットを連れて行く。



「シャーロット、終わる頃にまた迎えに来るからね。僕の可愛いシャーロット」


僕はシャーロットの額に口付けをした。


また真っ赤になるシャーロット。本当に可愛いな!



教育係に、今日は早めにシャーロットを開放してもらう様に頼んでおいた。僕は少しでも長い時間シャーロットと一緒に居たいんだ。



でも、その為にはやらなければいけない事がある。僕は気を引き締めた。

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