この道を。

エリー.ファー

この道を。

「止まるなよ」

「何がだよ」

「だから、止まるなって言ったんだよ」

「止まらないようにはするよ」

「止まらないようにするよ、とかじゃないんだよ」

「何が言いたいんだ。お前」

「止まるなって言ってるんだよ」

「じゃあ、止まらないよ」

「じゃあ、とかじゃないんだよ」

「しつこいぞお前」

「しつこくはない」

「いや、すごくしつこい」

「しつこくはないし、止まらないと約束してくれればそれでいい」

「止まらないよ」

「絶対か」

「あぁ、絶対だ」

「絶対に止まらないんだろうな」

「絶対に、絶対に止まらない」

「それならいい」

「は。何が言いたいんだ」

「ここから先の道に何が待ち構えているかは誰も知らない。未知なる道である。けれど、お前がここまで歩き続けたすべてが、どの道でも価値のあるものとして扱われることは間違いない。なぜなら、道は途切れるものではないからだ。常にどこかに繋がっている。見えないもので繋がっているということではない。見えている。間違いなく見えた繋がり。失うことのできない経験であり、時間であり、すべてである」

「どうしたんだ、お前」

「世界は一部であり、その一部が世界だ。共に歩むことはできないが、扉になることはできる」

「おい、何を言ってるんだ」

「扉を開けるか」

「え、あぁ、そうだな。開けようかな」

「扉を開けると、閉めたままの世界に戻すことはできない。それでも扉を開けるか」

「あぁ、開けるよ」

「一度、扉を開けてしまうと、もう俺に会うことはできなくなる。それでも扉を開けるか」

「え」

「一度、扉を開けてしまうと、もう俺に会うことはできなくなる。それでも扉を開けるか」

「あ、開けるよ。開けたいんだ。先に進みたい」

「自分以外の誰かを犠牲にすることで、人は日常を手に入れる。お前の選択は正しくもないし、間違っているわけでもない。残酷で平凡な選択を今日も行ったにすぎない」

「会えないのか」

「何がだ」

「お前とはもう会えないのか」

「さっき言ったとおりだ。会えなくなる」

「寂しいな」

「そんなことはない。お前は今から俺を殺すのだ。そうすれば、記憶にも心にも俺の情報は刻まれ、扉は開かれる」

「できないよ」

「できないなら、先に進むことはできない」

「進みたいんだ」

「ならば殺すしかない」

「どうすればよかったんだ」

「これが、一般的な道だ」

「じゃあ、他に解決策はあるかもしれないってことか」

「ただ、人類はそれをまだ見つけていない」

「じゃあ。それは、難しいな」

「難しいだろうな」

「殺さなきゃいけないのか」

「殺す必要はない。お前が諦めればいい」

「でも、俺は諦めきれない」

「お前のわがままが、俺を殺せるか。それだけだ」

「ありがとう。すまない。本当に今までありがとう」

「気にするな。俺は、お前に殺される気はない。必ずお前を殺す」

「あぁ、そうだな。恨みっこなしってやつだよな」

「この道には、もう誰もいない。しかし、戦う限りはこの道に誰かがいたことを記憶しなければならない。審判の時間だ」

「あぁ、そうなるな。戦うか、そろそろ。覚悟はできたよ」

「勝負は残酷だ。しかし、いつだって残酷なものは美しい」

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