お爺さんの家

 澄み渡った青空の下、新緑が彩る丘の上。まばらに生えた木々の合間に、その家はあった。


──リンリーン


 小さく丸い訪問者は呼び鈴を鳴らしたが、反応はなく、家の中に人の気配は感じられなかった。


「ふんふーん……」


 家主に届け物がある小さく丸い訪問者は、少し困った様子であたりをきょろきょろと見まわす。

 ほどなくして、後ろから声がかかった。


「やあ、おはよう。モフモフのふんふん便ちゃん。」


「ふんふーん!」


 小さく丸い訪問者は目を輝かせ、家主の老人に挨拶を返す。


「今日は朝早くから何を届けに来てくれたのかね?」


 小さく丸い訪問者は胸を張り、家主の老人に赤いリボンで結ばれた白い箱を渡す。


「ほう……これは、プレゼントかね?」


 リボンに手紙が挟まっていたに気づいた家主の老人は、手に取り内容を確認する。ほどなくして、その顔には優しげな、しかし悲しげな、なんとも言えない表情を浮かべていた。


「それではお願いするよ。モフモフのふんふん便ちゃん。」


「ふんふーん!」


 小さく丸い訪問者は、待ってましたと言わんばかりに胸を張った。そして、体を揺らしながら鼻歌を歌い始める。


「ふんふふーんふーん、ふーんふーん♪ふんふふーんふーん、ふーんふーん♪」


「ふんふふーんふーん、ふふふふーんふーん♪」


「ふんふふーんふーん、ふーんふーん♪」


──その歌の名は「Happy Birth Day To You」あるいは「Good Morning To You」──


 家主の老人は空を眺め、何かに思いを馳せた。ほどなくして、柔らかい笑顔を浮かべ、訪問者の頭に手を置き、優しくその頭を撫でる。


「ありがとう、モフモフちゃん。ワシも報いてやらねばならんのう」


「ふんふーん!」


 ふんふん便と呼ばれるモフモフとした小さく丸い訪問者は、大きく手を振って老人の家を後にした。


 丘をソリで滑り降りていく。家主の老人は、その様子を優しい目で見送っていた。

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