ふんふん便

マツムシ サトシ

乙女たちの家

――ピンポーン


「はーい。どなたですかー?」


「ふんふーん!!ふふふーんふーん!!」


「あ!ふんふん便ですね!おねえさま!ふんふん便が着ましたよ!!」


 ほどなくして、家の扉が開く。来訪者を出迎えたのは二人の年の若い女性だった。


「ふんふん便さん、ごくろうさまです。今日は何を届けてくれるんですか?」


 ふんふん便と呼ばれる小さく白い丸い生き物は、女性に一枚の紙を渡す。すると、穏やかだった表情が少しこわばった。


「お父さまから……私たちに……ですか……」


 ふんふん便と呼ばれる小さく白い丸い生き物は、ふんふんと言いながら大きく頭を縦に振る。


「それではふんふん便さん。お願いしますね。」


 女性の言葉を受けて、ふんふん便と呼ばれる小さく丸い生き物は、体を揺らしながら鼻歌を歌い始めた。


「ふんふふーんふーんふふふふーんふーんふふふふーんふーんふふふふーん」


―――リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ワルキューレ』第3幕の序奏「ワルキューレの騎行」―――


「あらあら……」


 少し間を開けて、女性はふんふん便に笑いかける。


「ふんふん便さん。ありがとう――私たちも行かなくては――」


「ふんふーん!!」


 ふんふん便と呼ばれる小さく白い丸い生き物は、大きく手を振って家を後にした。


 ふんふんを求める人たちのために、ふんふん便は今日も往く。

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