第17話 お手伝い!

「……このぬいぐるみ、大きいですね。何のキャラクターですか?」


 ヒカリさんの部屋にあげてもろて。

 ウチが最初に発した言葉はそれやった。


 ……どうしても、まずそれが気になったんや。


 この耳無し青狸のぬいぐるみ。

 妙に愛嬌あって、カワイイ。


 売ってるならウチも欲しいくらい。


 何のキャラクターなんやろな?


 それがどうしても気になったから、まず聞いたんや。


 すると、ヒカリさんからしれっとこう返って来た。


「ドラ〇もんよ」


 ドラ〇もん……?

 聞いたことあれへん。


 こんだけ個性強いキャラクターやったら、名前くらい聞いたことあるかもしれへんおもたけど。


 それすらないとは……どういうことなんやろう?


 ウチが目を泳がせて記憶を探っているのを見て、ヒカリさんは


「……知らなくてもしょうがないよ。母の故郷のキャラクターなんだから」


 少し、面白そうに言うた。


「……えっと?」


 ちょっと、今、スルーするには大きすぎる事言わはりませんでしたか?


 ヒカリさんのお母上の故郷のキャラクターだから、ウチには分からない。

 つまりそれは、ゴール王国で流行ってるキャラちゃう言う事ですよね?


 ……と言う事は?


「母は、帰化人なのよ」


 なんやて!


 そうやったんか!


「……もしかして知らなかった? 漢字は母の生まれ故郷で使ってた字なの。ニホンって国なんだけどね」


 ……知りませんでした。

 漢字、ヒカリさんのお母上の発明品やとおもてました。


 ウチがそう言うと。


「んなワケないじゃん。……あんな複雑な系統だったものを1人で作り上げるって、ウチの母どんな大天才よ」


 顔の前で手を振りながら笑われた。

 ……んー、言われてみればそう考えるのが自然なんかもしれへんなー。


 アイスだいふくを考案した人やから、そういうこともあるかなーと思ったけど。

 確かにそれはありえへんかもしれへんね。


「……なんでも元々猫型の自動人形で、ネズミに耳を食べられて耳が無くなったんだって」


 え、狸じゃなくて猫なんですか!?


 設定が深いですね!


「ノヴィタとかいう、怠け者のごく潰し少年を更生させるために、未来の世界からやって来たんだって」


 なんかバックボーン沢山ありそうやなー。

 話、長くなるかもしれへんね。


『……ドラ〇もんに関しては、アタシもちょっと煩いよ?』


 そこに、ヒカリさんの背中から、ニュっとテツコまで参戦してきた。


 アンタまで入ってくるんか!? なんで!?


「……ビッチヘイムでもドラ〇もんは大人気なんか?」


 そんなんありえるんか?

 アンタ曰く、自称・妖精たちの住まう別世界なんやろ? ビッチヘイム?


『いや、ビッチヘイムでは流行って無いけど、ニホンについては少し知ってるから』


 その流れで、ドラ〇もん知ってる、らしい。


 テツコ曰く、笑いあり、涙あり、ホラーありの傑作の物語らしい。

 マンガとかいう、絵と文字で物語を見せる作品で、それの傑作なんやて。


「マンガ……絵草子みたいなもんか?」


 そう、言うと。


『近いけどだいぶ違うよ』


 やって。

 ……どう違うんやろう?


『ヒカリはノヴィタを怠け者のごく潰しって言ったけど、確かにそういうところもあるけどさ、でもあの子もやるときはやるんだよ?』


 ……テツコはノヴィタとかいうキャラクターをしきりに弁護していた……。

 エライ熱く語りよる。


 何でやねん。何がそこまでさせるねん……?


 テツコの語りをしばらくウチは大人しく聞きながら、そう思った。

 熱量、半端無いわ……。


 ……っと。


 そうやない! ウチはヒカリさんと浄化技の相談をするためにお泊りを視野に入れてやってきたんや!

 ドラ〇もんの話を聞くために来たんちゃうやろ!


『……そこでノヴィタはドラちゃんに言うわけよ。「僕、勝てたよ」って……』


 目に涙を浮かべながら、熱い思いを語るテツコ。

 多分、相当いいシーンを語ってるんやろうけど、原作知れへんウチにはイマイチ伝わって来ない……


 だから、こう言うた。


「ドラ〇もんの話しに来たんちゃうはずやし。ウチ。ごめんやけど、本題入らせて」


 ……そう言うたら、テツコのやつ悲しそうな顔をしよった。

 う~ん、ちょっと悪い事したかな~?




「浄化技の内容を見直すには、やはり技の根源にあたる必要があると思うんです」


 気を取り直して、ウチはヒカリさんに自分の考えを伝える。

 上っ面だけ取り繕っても、多分解決せーへん。


 技の内容を根本から見直すわけやし。


「というと……」


 ヒカリさん、多分分かってはると思うんやけど、一応確認しはるんかな?


 ウチは、分かってると仮定して「ええ」と頷きながら


「ヒカリさんのお母上に、由来を聞いてみましょう」


 まずは、そこからや。




 ヒカリさんのお母上の、クミ・ヤマモト様は、午前中に家の仕事を終わらせた後、午後は書斎に籠って仕事されてはるらしい。


 忙しいねん。


 どないしたもんか……?


 今はそろそろ夕方やからなぁ。

 思い切り午後や。

(今日は土曜で半ドンで、自分のお昼を食べた後、お土産を焼いてそのまま出向いて来た……)


「母は、仕事に真面目に取り組んでるから、邪魔したらそりゃ怒るよ」


 言ってヒカリさん、思い出話。


 ヒカリさんは弟が3人居て、うち下2人が双子。


 1回、その双子の弟さんの片方が悪戯でお母上が写本を作ってる最中の原本に落書きをしたことがあったらしいんやけど。


 そのときはその弟さん、メチャメチャ怒られたらしい。


 下の弟さん、叩かれたりはしなかったらしいんやけど。

 お母上に


「箱に入れて保管してるものをどうして勝手に取り出したのかな?」


「その行為に一体どんな意味があるの? 言ってみなさい」


「もしあなたの落書きを、そのまま写本の記述に紛れ込ませるような失敗をお母さんがしたら、お母さん仕事無くなるわね」


「仕事無くなって、この家の固定資産税も払えなくなったら、今の生活潰れるかもしれないんだけど、そうなったらどうするの?」


「なるわけない? その根拠は? へぇ、あなた、未来を完璧に見通せるのね。すごいわねぇ」


 ……お説教が終わったとき。

 下の弟さん……双子で、トミイチいうらしいんやけど……ボロ泣きしてたて。


 普段は、2つ年上のお兄さん……つまり上の弟さんに喧嘩を吹っ掛けるくらい、生意気で活発らしいんやけど。

 それ以来、大人の仕事に悪戯をするような真似は絶対にしては駄目だと心に誓ったとか。


 ……まぁ、仕事に悪戯したんやから大目玉は分かるけど。

 話聞く限り、メチャメチャ怖いお母上なんやね……


 出迎えて貰ったときは、親切な面しか見えてへんかったけども……。


「まぁ、そろそろ夕食の支度で仕事を切り上げて出てくるかもしれないけど」


 その場合、夕食の仕度で忙しいはずだし……とヒカリさん。


 ……と、ここで、ウチは閃くものがあった。


「……普段のヤマモト家の夕飯のメニューは?」


「え?」


 キョトン、とした感じのヒカリさん。


 ウチの言わんとすること、分かりませんか?


 ……と、ちょっとだけヤキモキしたんやけど。


「あ!」


 ……気づいてくれはった。

 ヒカリさんなら大丈夫や思てましたよ。


「残りご飯と、みそ汁と、焼き魚!」


 ……なるほど。


 教えてくれはった、ヤマモト家での夕飯の定番メニュー。


 ウチらでも、用意できそうやね!




「お母さん、今日の夕飯なぁに?」


 ヒカリさんが、書斎の襖の前まで行って、お母上にそう聞きはった。


 一応確認しとかんとな。

 台所をメインで預かってるの、やっぱりこの家でもお母さんらしいから、勝手な事できへん。


 そしたら、まだ書斎に居たらしく。


「……ちょっと待って。もう少しで仕事終わるから」


 返事が返って来た。


 はい。ちょっとデリケートやから、ここから先は言い方考えなあけへんで?

 ヒカリさんの事やから、大丈夫や思うけども。


 そしたら


「実は私たちで夕飯の支度をしようと思ってるの~」


 はいヒカリさん、満点の答えですわ。

 さすがや!


 ウチは小躍りしたい気分やった。


 結論から先に言う事で、イラつきを呼び込まないようにする。

 忙しい大人への配慮に富んだ満点の答えや!


 ……まぁ、別にいらん言われたら終わりなんやけどな。


 ちょっとだけ、祈った。


 ここで、お母上の仕事を肩代わりして、お母上に聞きたいことを聞く時間を作ってもらう。

 そういう目論見。


 ……どない?


 返答を待つ。


 待っとったら。


「大根と豆腐の味噌汁と、アジの開きを焼いたのよ。……やってくれるの? 助かるわぁ~」


 ……襖の中から望んでた答えが返って来た。


 よっしゃ!

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