2章 いきなり解散!?

第8話 仲良くなりたい

★★★(テスカ)



 ヒカリ様のやってることの仲間に加えていただいた。

 こんなに嬉しいことは無い……ハズ、なんやけど……。


 あの日以来、ウチは悩んでしまってる。


 ヒカリ様と、どない付き合ったらええんやろう?


 挨拶は毎日しとる。

 しとるけど……


 休み時間に気軽に話しかける?

 お昼の時間に、給食を一緒に食べる?


 無理無理無理!


 そんなんできへん!


 逆に、そんな事をしようものなら、きっとボロが出て、大惨事になるわ。

 ウチには、その予感があった。




 そんな思いを抱えつつ、今日も寺子屋に登校する。


 ウチは寺子屋8年生。あと2年で卒業や。

 卒業時には成人年齢の15才に達しているから、そこからは大人として社会でやってかなアカン。


 ……ときどき、思う。


 ウチ、勉強だけはなんとか人並み以上にできるけど。

 それだけで、社会でやっていけるんかなぁ? って。


 だって、社会って1人で回してるわけないもんな。

 そこでは、学校の勉強の成績より、上手に他人と付き合えて、他人の協力を受け取れる人間の方が役に立つんちゃう?

 だとしたら、ウチが今頑張ってること、意味あるんかな……?


 それと。


 ヒカリ様とのこと。


 ヒカリ様を練習台にするってわけやないけど、ヒカリ様と上手に付き合えたら、ウチのその将来の役に立つんやないかな……?

 そんな思いも、ある。


 でも。


 ヒカリ様に、ウチみたいなアホのお世話を丸投げするんか?

 そんなん、アカンやろ。


 そう思う自分も居るんや。


 ……ホンマ、どないしょ……


「おはよう、トリポカさん」


 下駄箱前で、そんな物思いに耽ってるウチの背中から。

 ヒカリ様が挨拶をくれはった。


「おはようございますヒカリ様!」


 ウチは慌てて振り返り、ぺこりと頭を下げて挨拶を返した。



★★★(ヒカリ)



 トリポカさんが最近、なんか余所余所しい。


 私としてはもっと仲良くなりたい、って思ってるのに。


 トリポカさんは元々、私がノラハンターとして戦う日に備えて、自主稽古をしてる様子を見つけられ。

 その杖術の動きの面白さに興味を持たれて、見物されていただけの関係だった。


 彼女の事は、彼女が努力家なのは知ってたから、元々嫌いじゃ無かったんだけど。

 私の自主稽古を見物されるようになってからは、何だか、彼女に対して愛着みたいなものを感じるようになった。


 そんな彼女が、私と同じノラハンターの運命を背負った女の子だった!


 私は最初、こんな危険な運命を、私以外の子に背負わせるなんて……と思ったけど。


 仲間が居る。

 その、心強さ。


 戦士として戦ううち、その事の大事さに気づいたんだ。


 だから、私はトリポカさんと仲良くなりたい。


 そう、思ってたのに。


 なんだか、前より距離が遠くなった気がする。


 ノラハンターの事が分かる前より……


 これ、どういう事なんだろう?


『あの子は、人付き合いに慣れて無いんだよ』


 自宅の自室で、テツコに相談をしたら。

 そんな答えが返って来た。


「え? それってどういう事?」


 自室で、1人座布団に座りながら。

 言ってる意味が分からなかったから、私はテツコにそう聞き返す。


 人付き合いに慣れて無い?

 どうして?


「お父さんやお母さんは誰でも居るし、兄弟は? 友達との会話とか、そういう経験が無いって事?」


 ちょっと言葉が足りて無いけど、ニュアンスはテツコに伝わったみたい。


 親兄弟との会話や、友人との会話で人付き合いって学ぶもんじゃないの?

 そう、言いたかったんだ。


 言いたかったんだけど……


 テツコにため息を吐かれた。


『ヒカリ、あのね』


 腕を組んだテツコが、胡坐の姿勢でふよふよしながら、言って来た。


『アンタ、普段は頭良いのに、ときどきホントポンコツよね』


「ぽ、ポンコツ……!」


 あんまりな言いように、思わず絶句する私。


 やれやれ、という風に続けられる。


『親兄弟相手じゃ本当のコミュ力は鍛えられないし、誰にでも友達が居ると思うなっての』


 ビシッ、と指を突き付けられて、言い放たれる。

 テツコの指先に、ポンコツの字が見えた気がした。


 思わずショックを受けてしまう。


「……じゃあ、このポンコツめに、教えてくださいませんでしょうかテツコ様……」


 へへー、と頭を下げて、教えを請うた。

 テツコは、よろしい、という風に頷くと。


『まずは一緒に遊ぶのが良いんじゃない? 軽い感じで誘ってみなよ』


 ……一緒に遊ぶ……?

 テツコの提案に、私は思案した。




「トリポカさん! 演劇を観に行こう!」


 自分から遊びに誘うということで、無難な事。

 それがこれだった。


 演劇が嫌いって人、あまり聞いたこと無いし。

 お母さんがたまにお父さんと一緒に観に行くときみたいな良い席ならいざ知らず。

 遠くの安い席なら、私たちのような子供でも手が届くし。


 トリポカさん、オシャレに興味があるように見えないから、服の生地を買いに行こうって言っても、喜ばれないかもしれないよね。

 だったら、コレしかないよ。


「え? え? ウチとですか……?」


 寺子屋の授業の休み時間、トリポカさんの席に行って彼女を誘った。

 彼女、すごく驚いてた。


 ホント、こういうの慣れて無いんだな。

 それが私にも分かっちゃった。


「うん。そう! ちなみに演目は『神話戦争』……人気の演目だよ!」


 神話戦争は、法神と混沌神が、世界の在り方を賭けて戦い合う物語だ。

 神話を下敷きにしてて、原作小説もかなりの人気作。


 きっと、トリポカさんも楽しんで観てくれると思うんだけど。

 何せ元ネタが神話だし。

 誰でも知ってるもんね!



★★★(テスカ)



 寺子屋の休み時間の時に、いきなりヒカリ様に演劇に誘われた。


 正直、嬉しくて……困ってる。


 周りの奴らの視線が……痛い。


 なんであのカンサイ人、ヒカリ様に誘われてるの!? みたいな。


 ……どういうつもりなんや……?


 ウチはテツコの姿を探したけど、おらへん。


 ヒカリ様、テツコに消えるように言うたんかな?

 邪魔されたないから、みたいな事で。


 ヒカリ様に誘われた演劇の演目は「神話戦争」

 ウチは、原作小説を貸本屋で借りて読んでるし、好きな話や。


 オモイカネがかっこええねん。


 オモイカネが、マーラと問答するシーンが最高に好きなんや。

 知恵の神であるオモイカネに、姦淫の神マーラが「妾の愛を理解しようともせず、何が知恵だ。笑わせる」と言い放つんやけど。


 オモイカネは言うんやね。


「人の愛とは他者により良い生き様を与えようとするもの! お前の愛は、人の愛とは呼ばない! お前の愛は、人を野獣に貶める悪魔の囁きだ!」


 文字で読んだとき、シビれたんやけど。

 演劇だとどうなってるんやろね?


 興味ある。断然ある。


 しかも、それをさそてくれるんがヒカリ様……


 嬉しいわ。嫌なはず無いやん。


 だから……


「観に行きたいです。いつですか?」


 そう、返事した……。




 で、家に帰って。


 ハッと気づいた。


 ……どないしょ?


 約束の明後日の日曜日、ヒカリ様と遊びに行くときに来ていく服が無いやん……!


 これまで、友達付き合いってものをほとんどやらんで生きて来たから。

 そういう、余所行きの服というものをウチが持って無いことに気づいてしもた。


 オカンに「アンタの着物も作ったろうか?」って言われても「別にええ」って言いまくってた。

 着てる着物がキツくなってない限りは。


 オシャレにうつつを抜かすのは、勉強できへん奴の習性や。

 ウチはそんなんとは違うんや! なんて思って。


 頑なに、アホな意地を張ってたわ。

 そのツケが今、一気に押し寄せて来とる……。


 ……どないしよう?


 ヒカリ様、きっとエエ服を着て来るんやろうなぁ……


 そんなところに、ウチがしょうもない服を着て現れたら……


 馬鹿にしてるんか、って怒らせてしまうかもしれへん。


 ……どないしょ?


 手持ちの着物と、帯やなけなしの装飾品を自分の部屋で広げまくって、ウチは頭を抱えた。


 ……ああ、人間。

 やっぱ基本的な事は必要無いように見えたとしても、やっておかんと、こういうときに困るんやねぇ……。


 まさかこんな事で、それを思い知らされると思えへんかったわ……!


 今から作っても、明後日にはとても間に合わへんやん……!

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