第5話 ノラハンターって何!?

 どういうことなんやろう?


 テツコがウチに、何か渡そうとしてて。

 ヒカリ様はそれをあまり歓迎されてない。


 何か……心配? してはるように思えた。


『アタシの姿が見えたという事は、この子は……トリポカちゃんだったっけ? トリポカちゃんには、その資格があるって事だから』


 テツコの意思は変わらないみたいやった。

 ゴソゴソして……黒い板を取り出してきた。


 かまぼこの板みたいなやつや。


 ちょっと違うのは、板の一端に、足みたいなもんがついてて、立てられるようになってる。


 で、その片面に、白い字で漢字が刻まれてて「地獄背保音」やって。


 じごくはいほおん……?


 ……何なんこれ?


 ウチが説明を求めるようにテツコを見ると


「これはイハイパクト・ペルセポネー。世界にひとつしかないから絶対に紛失しないように」


 そう、言われた……。


 イハイパクト? ペルセポネー?


 何なん? 全く分からん……?


 続いて、こんなものも渡された。


 先端に金属のお椀みたいなもんがくっついてる棒と、それを叩くための小さな棒。


『これがおりんチャイムにおりんスティック。……以上が、ノラハンター変身セット』


 おりんチャイム? おりんスティック? ノラハンター?


 ……ちょっと待って。

 いきなり過ぎて混乱しとる。


 ホント、何なん?


『アンタはこれからそれで、ノラハンターに変身して、邪悪と戦う運命にあるのよ』


 混乱しとるウチに構わずに。

 テツコは勝手にどんどん話を進めよる。


 ……ちょっと待ってや!


「ちょっと待って! 整理させて!」


 耐えられんようになったから、ウチは思わず言うてもうた。


 すると、テツコの方も少しハッとした顔になり。

 申し訳なさそうにしてくれる。


 ……気ィついてくれたんかい。やっと。


 ウチは深呼吸し、まず何を問うべきかを考えて。

 言うた。


「まず、ノラハンターって何なん?」


 ……まずはそれやろ。


 イハイバクトだとか、おりんチャイム、おりんスティックも気になるけど。

 それを合わせて「ノラハンター変身セット」言うとるわけやし。


 この話で一番大事なんは、そこや。


 まずそこを確認せんと。


 そしたら


『ビッチヘイムの王・閻魔様に、こちらの世界で邪悪を討つ戦士を探し、力を与えよ……って言われて』


 その邪悪を討つ戦士の名前が、ノラハンター。

 アンタが変身する戦士の名前。


 エンマ様……? 変身……? 戦士……?


 まぁ、ええわ。そこは分かった。

 そこまでは分かった。


 次は……


「討つべき邪悪って何なん?」


 次はそこ。

 何でウチがそんなもんと戦わなアカンのか。

 戦うの、警備兵や冒険者の仕事やん。


 なんで寺子屋8年生の女子が、そんなことをせんといかんのよ?


 そこを説明してもらわんと。


 そしたら、こう言われた。


『……アンタもノラ系モンスターは知ってるよね?』


「当たり前やろ」


 この世界の女の子で、ノラ系モンスターを知らんような子は、赤ちゃんくらいや。

 女の子は物心つくと同時に、ノラ系モンスターの危険性を聞いて育つのが普通やから。


 ノラ系モンスター……


 それは、オスしか生まれず、繁殖に人間の女の子を利用する怪物の総称。

 姦淫を司る邪悪な女神・混沌神マーラが創造した怪物や。


 代表的なものが……



 ノライヌ(狼の姿をしたノラ系モンスター。様々な種類が存在し、高位のものは人語を話す。ノラ系モンスターの代表格)


 ノラウシ(牛の頭と、人型の胴体を持つノラ系モンスター。言語を持たない。人肉を好む)


 ノラウマ(直立した馬と表現するのが一番近いノラ系モンスター。陸上のノラでは一番危険。混沌神マーラから授かった高位の魔法を使いこなす恐ろしい怪物)


 ノラタコ(人語を話す巨大蛸の姿をした、海のノラ系モンスター。口から尿道結石と似た成分の岩を吐きだす能力を持つ。恐ろしく怪力)


 ノラクラゲ(人語を話す青い水ようかんのような頭部と、黄色い触手を備えた、海のノラ系モンスター。混沌神マーラから治癒系の魔法のみを授かっており、それしかできないが、相当の回数使用が可能なため、他のノラ系モンスターと組んで出現されると超厄介)


 ノライカ(人語を話し、加えて高位の魔法を混沌神マーラより授かっている最強の海のノラ系モンスター。その体は、恐ろしく巨大。大型の船と比較してもまだ大きく、海で遭遇したら死を覚悟せねばならない。見た目は渦巻き状の貝殻に胴体を収めた巨大イカ)



 ……そういう、恐ろしい奴らや。

 全ての女の子の敵やね。


 ……ちょっと辛い話になるけど、カンサイ地区ではあんまりノラ系モンスター……特にノライヌの駆除が徹底されてなくてな。

 カンサイ地区で繁殖して、それがゴール王国に流れてくるって事例が結構あるんよ。


 その辺も、カンサイ人がゴール王国民に嫌われる原因にもなっとるらしいわ。


 お前らのせいで、ウチの国の女の子が危険な目に遭わされる、って。


 なんとかならんかなぁ……?


 ……まぁ、それは置いといて。


「それがどう繋がるん? ノラ系モンスターの駆除は、冒険者の仕事やろ?」


 ウチらがやらなアカン理由にはならへんはずや。

 やったらダメなことも無いんやけどな。


 そしたら。


『……ただのノラ系モンスターなら、そうね』


 含みのある言い方やったわ。


 どういう事なん?


 するとテツコは、神妙な顔でこう言いおった。


『……ビッチヘイムの妖精の一部が、こっちの世界にノライヌの真の最上位種・ノライヌエンペラーとして転生して来るのよ』


 また出たよビッチヘイム!


 というか、そこ地獄やろ!?

 そうとしか思われへんねんけど!?


 ツッコみたいところやったけど、話の腰が折れるのでウチは耐えた。


『連中、ビッチヘイムを抜け出すとき、人間の欲望の記憶を封印した魔具……DLメモリを大量に持ち出したのよ』


 DLメモリ……? また新ワードが……。

 聞くと、どうも口紅くらいの大きさの、直方体らしい。

 一瞬テツコ「フラッシュメモリに似てる」って言いよったけど、フラッシュメモリって何なん?


『やつら、おそらくそれをこっちの世界の人に使って、欲望の怪物「エロマニア」を創り出すつもりのはず……』


 そのDLメモリ、人間の身体の中に押し込むことが出来て。

 押し込まれると、その人間が秘めている性的欲求をエネルギーに、メモリの中の欲望の記憶が怪物化。


 エロマニアっていう化け物になってしまうらしいんや。


 ノライヌエンペラーの目的は、そのエロマニアを使って、こっちの世界の女の子をいじめて、極上のそそる泣きっ面を混沌神マーラに捧げる事。

 捧げた極上のそそる泣きっ面が十分に溜まると、混沌神マーラが復活すると。


 そういう事らしい。


 ……それは……大変なことやね……!


 そして。


『エロマニアを浄化して、元の人間に戻せるのはノラハンターのみ……だから、アンタたちの力が必要なの……』


 なるほど……分かったわ。

 それは冒険者には任せられへんよな。


 あの人たちは殺すしか出来ないから。


 ウチらしか、エロマニアにされてしもた人を助けることはできへんねんな……


 しかし……


 そんな重要な使命、ウチなんかが本当に果たせるんやろか……?


 ウチ、言うたらなんやけど。

 勉強しか取り柄あれへん。


 運動得意ちゃうし。

 背ェ低いし。


 いいのは威勢だけや。


 口ばっかの女の子や。


 そんなウチが、ノラハンター?


 出来るん……?


 そう、思って、戸惑っとったときやった。


 突如、聞こえてきたんや。


 その叫び声が。




 エロマニアァァァァァァァァァッ!!


「きゃああああああああ!」


 謎の吠え声と……

 女の子の悲鳴!


 これって……!?


 ウチはテツコを見た。


 テツコは、ついに来たか、と緊張した面持ちで


『ヒカリ……』


 そう、言うたんや。


 ヒカリ様……?


 そういや、テツコは言うとった。


『だから、アンタたちの力が必要なの……』


 って。

 ということは、ノラハンターはウチだけやない、言う事。

 で、そのテツコが、ヒカリ様の名前を呼んだ言う事は……。


 ヒカリ様は、テツコを見て、コクン、と頷きはった。

 その表情には怯えは無く、使命感で一杯の、気高い表情やったわ。


 ヒカリ様はブルマーに手を入れ、何かを引っ張り出しはった。


 ……それは……


 ウチとは違う、白いイハイパクト。


「イハイパクト・イザナミ、セット!」


 スチャ、と正確な動きでその場に正座をして、自分の目の前にイハイパクトを立てるヒカリ様。

 そのイハイパクトには、ウチとは違う漢字が書かれていた。


 伊邪那美。


 ……いじゃなみ?

 ひょっとして、あれでいざなみって読むんかいな?


 そしてヒカリ様は、さらにブルマーからおりんチャイムとおりんスティックを出して。

 厳しい顔でイハイパクトを見つめて


「変身!」


 チーン


 1回、おりんチャイムをおりんスティックで叩きはった。


 すると。


 イーン イーン イーン……


 共鳴するみたいに、おりんチャイムの音色が響き。

 鳴っているおりんチャイムを、ヒカリ様は額に近づけた。


 その、瞬間や。


 ピカッ!


 輝きが生まれた。


 輝きの中、ヒカリ様は宙に浮かび上がり……


 まず、ヒカリ様の着ていた体操着が消失して、全然別の服になった。


 フリフリがついた、白いドレスみたいな姿。

 ただし、動きやすくするためか、ミニスカート。


 それと同色の手袋、ブーツも出現し、ヒカリ様の手と足に装着される。


 最後にヒカリ様の髪の毛が伸び、背中を覆う程になり、金髪になった。

 イハイパクトが浮かび上がり、ヒカリ様の腰のポケットに勝手に納まる。


 ……瞬く間、やったわ。


 これがノラハンターへの変身なんやね……


「正義の使者……イザナミハンターここに降臨!」


 変身を完了したヒカリ様は、手を顔の前で斜めに構えるような姿勢で、そう宣言。


 それは、これから使命を果たすという自分へのケジメのようやったわ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る