第4話 出現! エロマニア!

★★★(テスカ)



 ウチが顔を上げると。


 そこには、女がおった。


 黒いセーラー服の女や。


 見たところ、成人してる、金髪のセーラー服の女。

 年齢は17才くらいか?(※この世界では15才から成人です)


 ものごっつい、エロい女やったわ。


 まず、チチがデカい。

 しかも、バランス的にエロいより下品のギリギリのラインや。

 ウチみたいな貧乳からすると、存在自体が喧嘩売ってると言うべきかもしれへん。


 で、腰は細くて、ケツがでかいときてる。


 なんやねん。


 ……なんとなく、ヒカリ様に全体的なフォルムが似てるような気がしたのが腹立つ。


 ヒカリ様をエロ改造したらこうなる。そんな感じ。


 髪型と髪の長さはよぉ似とった。エロ女の方は肩に届くあたりで切り揃えてる。

 ヒカリ様の方が若干長い。


 で、目付きの方はヒカリ様とだいぶ違っとるな。

 ヒカリ様の目は涼し気な切れ長の目やけど、この「浮いてる」女の目は大きかった。


 ……そう。


 この女、浮いとるの。ふよふよと。


 まるで天女か妖精みたいに。

 んで、ヒカリ様に付き従うみたいに。


 まぁ、妖精言うにはサイズデカ過ぎるし、羽根もなんも生えとらんのやけど。



 そのエロ女、最初はウチの事を無視して、ヒカリ様に話しかけとったけど、ヒカリ様は反応せんかった。


 ……いや。


 よぉ見ると、エロ女の話し言葉が来るときにちょっとだけヒカリ様、目に動きがあって……そのエロ女を気にしてはる!


 ……見えてはるんや!



 で。



「ちきしょう! そのうち自分が間違ってたことに気づくさ! そのときに後悔すればいいんだよ!」


 とてつもなくブサイクな捨て台詞を残して、立ち去って行ったイケメンには、このエロ女、見えてへんみたいやった。



 ……どうなっとるん?



「……ありがとうトリポカさん。アナタが助けに入ってくれなかったら、きっと私はあの人ともっと酷く揉めていたと思う」


 イケメンの姿が消えてから、ヒカリ様はウチにそうお礼を言うてくれた。


 嬉しかった。


 すごく嬉しかった。


 ……けど。


「お礼には及びません……けど」


 ウチは、ちょっと行儀悪いな、と思いつつ。


 ヒカリ様の傍でふよふよしてる金髪エロ女を指差した。


「……その人、何なんですか? 見えてはりますよね?」


 それを言うたとき。

 ふたりとも、目を丸くしたんや。




 場所を移した。

 ちょっと、人目を気にしなアカンかったから。


 茂みの奥に、3人? で移動した。


 そこで。


『アタシはテツコ。魔法の国・ビッチヘイムから来た妖精』


「妖精~?」


 金髪エロ女がそんな自己紹介をしくさったので、ウチは思い切り疑わしい声をあげてしもうた。

 別に悪意はもっておらへんねんけどな。


 だって……


 どうみても、妖精ちゃうやん。

 ただのセーラー服着た裸足の金髪エロ女やん。


 妖精っぽいの、浮いてるところだけやん。


 ウチがその辺を指摘すると。


『ビッチヘイムでは、これが妖精のデフォなんだから仕方ないでしょ』


 ……力技で返された。


 まぁ、疑問は他にもあるわ。


「だいたいビッチヘイムってなんやねん! ふしだらな女で溢れ返ってる国か!?」


 ビッチヘイムやしな。ありえる。


 だいたいそこの住人を自称するこのテツコなんていう女のナリがあんなんなんやし。

 なんやねんあのチチ!? あのケツ!?

 男に見せびらかすために発達したようにしか思えへんわ!


 そんなウチのそんなツッコミに、テツコは


『失礼ね……ビッチヘイムは血の池や、針の山、炎の草原に、極寒の氷の大地……妖精をぐらぐら煮る鉄の釜……血を血で洗う闘争スポーツ……妖精たちを愉しませるアトラクション豊富な、それはそれは美しい魔法のテーマパークよ』


 それのどこが楽しいねん!


 まるでいうか、ほぼ地獄の光景やないか!


 ウチがそうツッコむと


『……一面的なモノの見方は見識を狭くするよ。これ、アタシの最愛の相方からの受け売りで、忠告』


 テツコはしれっとそう返して来よった。


 やかましいわ!


「まぁまぁ、トリポカさん。色々ツッコミたい気持ちは分からなくも無いけど」


 ヒカリ様が仲裁に入ってくれはる。

 ウチは、黙るしかあらへん。


「テツコは悪い奴じゃ無いの。だからまぁ、そんなにツッコまないであげて」


『そうそう。アタシは悪いヤツじゃない。イカれてるけど』


 自覚あんのかい!




『……しかし、アタシの姿が見える子が、ヒカリ以外にとうとう現れたわね』


 一通りツッコミが済むと、テツコは空中で胡坐の姿勢でふよふよし。

 腕を組んで感慨深そうにそんな事を言うた。


 何? 何なん?


「アンタの姿が見えたら、何かあるん?」


『大アリよ。……アタシの姿が見えるってことは、見返りを全く求めないで、他人のために傷つく覚悟を固めた、って事なんだから』


 ……う。


 いや、別に恥ずかしい事なんてしとらんわけやけど。


 あのときの心境を言い当てられて、ウチはこそばゆい感覚を味わった。


「それ、ホンマなん……?」


『うん。ホンマホンマ。アンタはそういう気高い精神の持ち主なのよ』


 ……なんも調子変えやんとこの女は……


 悪い奴やない、ってヒカリ様の言葉に間違いは無いみたいやね……。


『で、そんなアンタに、プレゼント』


 ウチがちょっと照れていると。

 テツコのやつ、ふよふよ浮かびながら自分のスカートのポケットを探り始めた。


 すると


「テツコ! ……本当に渡すの?」


 ヒカリ様が、口を挟まれたんや。

 少し、大きな声で。


 驚いてヒカリ様を見ると。


 ヒカリ様は……悲しい顔をしてはった。

 正しいけど、それをするのはあんまりだ。


 そんな……感じの……



★★★(サオヤ)



 畜生。

 この、呉服問屋クーの跡取り息子のサオヤの告白を蹴るなんて!


 お高く止まりやがって!


 この街の住民は、10年ちょい前に街を救ってくれた英雄であるクミ・ヤマモトを尊敬してるから、あの女は、家の本当の稼業はただの刃物の研ぎ師なのに、お嬢様扱いだ!

 ……まぁ、実際金はあるにはあるし、寺子屋に寄付もしてるから、上流階級の体裁は整ってはいるのだが、この俺のような、本物の金持ちの家柄じゃない!


 それなのに!


 この俺の告白を2回も蹴りやがった!


 許せない!


 あの女、男を見る目が全然無いんだ!


 家は研ぎ師の家系とはいえ、金持ちだし。

 母親は英雄だし。

 顔も身体も良いし。

 性格も悪くない。


 俺の恋人に相応しい……何なら、嫁にしてもいいと思ったから告白したのに……! クソッ!

 あんな傲慢で頭の悪い女だったなんて!


 金をオシャレにつぎ込んで何が悪い!?

 俺という最高の男を飾り立てるための投資だろうが!


 それが分からないなんて……!


 所詮は成金ってことなのか? ガッカリだよ!


 ……畜生……でも惜しいなぁ。


 あの身体……自由にしてみたかったのに……クソがッ!

 俺は、手に入らなかったあの女の胸や尻、太腿を想像して苛立ちを深める。


 何でだッ! 何でだよッ!


 この先、俺以外の男があれを手にすると思うと、許せない気持ちでいっぱいだ……!


 畜生……畜生……!



 俺は、武道場の裏から立ち去りながら、イラついていた。

 腹立ち紛れに、石を蹴っ飛ばす。


 そんな事をしても、全然気が晴れないが。


 ああ、イライラする!


 あの女を落とすために、遊んでた女全員切ったのに!


 畜生!


 ……そのときだった。


「……そこのオマエ……良い欲望を持っているワン」


 誰かの声が、聞こえて来たんだ。


 ……ぞっとした。

 その声に、俺は危険なものを感じ取ったから。


 ど、どこだっっ!?


 必死で見回して……


 ……居た……。

 茂みの影に……!


 それは、後ろ足で直立した犬だった。


 ……いや、犬のようなものだった。


 何故なら、その犬は……中年男の顔をしていたからだ。

 暗い目をした、邪悪な顔の、禿げた中年男……。


 ば……化け物……ッ!


「だ、誰だオマエはッ!?」


 俺は逃げ出したいと思ったが、足が動かなかった。

 ガクガク震えて、動けなかった。


 それを誤魔化す様に、俺の声は大きくなる。


 ……誰か……誰か来てくれ……!


「俺はノライヌエンベラー……ゲーハーだワン!」


 その化け物は、自分をゲーハーと名乗り、懐から、緑色をした長方形の物体を取り出した。

 大きさは、口紅くらい、

 先端が金属になっており、横にボタンがついていた。


 ゲーハーは、その犬の前足で、器用にそのボタンを押したんだ。


『ブッカケ』


 するとその長方形の物体から、無機質な人の声で何かコールされた。


 ゲーハーはそのコールを聞いてニヤリ……いやニチャリと嗤って。


「その欲望……このDLメモリで解放してやるワン!」


 そして動けない俺に、ゲーハーはそのDLメモリという物体を投げつけて来た!


 それはくるくると回って俺に飛んできて……


 俺の額に当たり、俺の体内に吸い込まれた。


 ……ちょうど、金属の部分が当たったのだ。


 それと同時に、俺の身体に変化が起きる。


 俺の身体が膨張し、人間の形を辞めたものに変わっていく。


 太くなった腕。指の無くなった手……妙な質感の体色……。


 うごおおおおおおおおおおおおお……!!


「エロマニアの誕生だワーン!!」


 その、前足を広げ、狂気の笑いを浮かべたゲーハーの言葉を聞いたのを最後に。

 俺の意識は……途絶えた。


 エロマニアァァァァァァァァァァァッ!!


 そして。


 俺でなくなった俺は、そう高らかな叫び……いや、産声をあげたのだった。

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