第6話 紅
【幕間】
離れてから少し名残り惜しく感じ、いつもより半歩近くで鏡を差し出した。ゆっくりと瞼を開けた彼の人は何も言わず、鏡を受け取る。しかし、一瞥すると彼の人は鏡を置いてしまった。
少し考える様に俯き、目尻を撫でつつ、そのままちろりと自分を見た。視線が交差し、彼の人はお猪口と筆を手にした。筆を一瞬水に沈め、よく水を切ってからこちらに差し出した。器は不純物が混ざって、赤く不思議な模様ができ、時期に溶けて消えた。何も言われてはいないのに、何をすればいいのか自然とわかった。
手に取れば、彼の人はまた瞼を閉じた。唇は閉じたままに。そろそろと近づき跪いた。筆を紅に沈め、目尻にそっと当てる。彼の人の瞼が軽く震えた。
それについ魔が差した。
筆を引き戻し、お猪口を持った手に持ち替えた。紅さし指を紅につけた。小さく引きつった様に指が震えた。そして、自分はソッと瞼に触れ、ようとした。訝しげに瞼をあげた彼の人と目があった。ゴクリと喉がなった。彼の人は小首を傾げた。軽く眉を顰めると、そのまま何事もなかったかの様にまた、瞳を閉じた。
思わずホッとしてしまった。
何事もなかったように筆を滑らせ、目元に赤い隈取りをしていく。
ああ、胸の臓が嫌な音を立てる。
ジリジリ。
【暗転】
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