第2話 なまけもの

ナマケモノ。ナマケモノは愚か者、動きが遅い動物で有名だ。のんびり暮らしていると誰もが想像してしまう。まず、なまけるという言葉自体が悪と認識している人が大勢いるような気がする。


しかし、ナマケモノは違う。彼らは水の中では、陸の3倍ものスピードで進み移動をしたりする。それに加えて1日中木にぶら下がる事、これは人間には出来ないだろう。彼らは適応能力が非常に優れた動物と言えるだろう。


しかし、僕はどうだ?僕は無理をしないを精神に困難に立ち向かったり、何かに挑戦したりした事はあっただろうか?


人あたりは良いとは言われるが生まれて15年、本当の友達が出来たことはない。形だけの友達はいたのかもしれない。ましてや恋人なんていたことがある訳がない。


僕は自分が好きに慣れなかった。幼少期、両親は結衣ばかりを可愛がっていた。結衣は兄から見たって可愛い。しかも、勉強もトップクラスにでき、友達だって沢山の居ただろう。それに比べて僕はどうだろうか?両親が愛をくれないのも考えれば分かってしまう。


僕の成績は平均以下、運動音痴、友達を家に連れて行ったことは無い。そりゃ両親から嫌われるわけか。


結衣が死んだ後から家族での会話は無くなった。近所の子ども達の笑い声が耳の近くまで響いてくる程だ。


両親はいつも泣いていた。食事でも僕は1人になった。家に帰ると両親共、部屋にとじこもるようになった。食卓テーブルにはラップにかかった料理が1人寂しく置かれていただけだった。


両親が海外赴任する事になった。理由は教えてくれなかった。愛してくれない両親と居ても僕自身もくるものがあった。これでよかったのだ。中学3年に進級して学校が終わり帰宅後、

両親の姿は無かった。


リビングルームのテーブルに通帳が置かれていた。

僕の生活費だろう。これで生活しろか…

それから僕の1人生活が始まった。結衣を失った僕ら家族は崩壊した。これが良かったのか悪かったのかは誰も分からない。


これだけされても僕が結衣を嫌いに慣れなかったのには理由があった。


結衣は僕にいつも優しくしてくれた。いつも話し相手や遊び相手になってくれた。結衣が居てくれたお陰で僕の視界にも色があった。


結衣が好きだった。それは恋愛的意味では無いが、家族として本当に大切な人だった。


今の僕には色は無い。真っ黒ではなく、透明で何も無い。



3月25日


僕はベットの上で目を覚ました。天井はいつもの景色だった。時計の針は9を刺していた。


ふとカレンダーに目が入った。僕は携帯がない為、今日の日付が分からなくなる事がある。

なのでカレンダーに毎日メモする事にしていた。

-

3月24日 (木)

今日もいつものと変わらない1日だった。図書館に行って本を借りて家で夕方まで読み耽った。

その後夕飯を買いにスーパーに行った。

今日は麻婆豆腐を作った。明日もいい1日でありますように。おやすみ。

-

これは3月24日に僕が書いたメモだ。って事は今日は25日?


そうだ、テレビをつけよう!テレビを観たら分かるはず。


僕は大急ぎで階段を駆け下り、リビングルームへと向かった。

-

今日は3月25日です。只今の時刻は9時10分です。ではニュースのお時間です。今日未明、

西高校の女子生徒が学校校舎裏で殺害されました。名前は…

-

やはり1週間前なのか今日は。時計も間違っていないようだ。西高で殺人事件か、物騒だ。

思わずテレビを消してしまった。


てか、学校始まってるじゃん!急いで行かないと!いや、でも殺人事件があったんだ。今日は休みだろう。連絡先を持っている友達なんていないけど、いつも1人でいる勘だと休みだろう。


恐らく僕は気絶した。だが、何故過去に戻ってきた。そしてあの子は誰だったんだ。結衣だったのか。あーもう分からない。記憶が曖昧だ。


頭を打ったのか少し目眩がする。病院に行けばいいのか。でも何をしたのかって説明出来ないよな〜。


頭がグルグル回る。苦手なんだよ。こうやって色々考えるのは。目眩が強くなっている気がする。


西森さんに連絡先聞いておければな〜。あの人くらいしか宛が無い。心底、僕には何も無いんだと確信してしまった。


「いてっ!」


頭を抱えながらリビングをぐるぐるまわっていると何か踏んでしまった。

-

先程のニュースで追加の情報がきました。

先程の殺人事件の被害者は西高校の1年生、西森美咲さんだと分かりました。追加の情報がありましたら、また報道致します。

-


「はっはっ……はっはっ………」


「そうやって、なんで僕の前から人を無くしていくんだ。」


「おい!おかしいだろ!おかしぃぃだろがぁぁ!!」


体中が火照ってくる。苛立ちと憎しみと嫌悪、悲しみ。沢山の感情が溢れてくる。声を枯らすまで叫んだ。誰に向かってかなんて分からないくらいに。この感情をテレビに向かって叫んだ。



人生は苦労が付き物なんだからお兄ちゃんも早く苦労して人間社会に苦しめばいい!


おいおいひどいぞぉ。お前まだ11なのに人間社会なんて分かるのかよぉ。


わかるもん!おにぃよりは分かるもん!


お、おにぃ…お兄ちゃん泣いちゃうよ。


まっ、間違えただけ///!勘違いしないでよね///!



苦労か…そういえば苦労なんてした事無かったな。そのツケが回ったのか?それにしてもあんまりだ…


感情が溢れかえ過ぎて、時間の流れも早い様に感じた。ふと我に帰った時には夕方を回っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る