青春はまだやってこない。

中島スネイク

第1話 青春とは?

皆さんは青春とはなんだろうか考えた事はあるだろうか?これは僕こと榎木優が、高校入学に差し掛かかった3月終わりの1週間、不思議な出来事を体験した話だ。


3月31日


起床。歯を磨き、家を出る。時刻は午前9時。

家はなんの変哲もない白い一軒屋だ。両親は現在海外赴任中。なのでここで一人暮らしをしている。家事は母親に幼い頃から厳しく教わった為、苦労する事は無い。今思うと母親に感謝しかない。


やはり一人で使うにはこの家は広すぎる。1階にはリビングルーム、キッチン、バスルーム、トイレ、和室、両親の部屋、父の書斎がある。

そして2階には僕の部屋、今は亡き妹の部屋がある。


いつもと変わらない日常を繰り返している僕にも3年前にある転機が訪れた。


妹が死んだ。


テレビを何となくつけていると、人が亡くなった事件や事故が毎日の様に報道されている。僕らはそれをいつも見慣れている。それが自分、いや自分の身近に起こるなんて考えてもいない。



妹の結衣が死んだ。


結衣は僕の1つ下で本を読むのが好きだった。結衣は小説をよく読んでいた。亡き結衣の机の中から沢山の小説原稿が出てきた。結衣は小説家を目指していたのかもしれない。


大切な人、結衣が死んだ。


結衣は12歳でこの世を去った。小学校卒業式、下校中。一台の普通自動車に突き飛ばされた。

そこにはガードレールが貼られていたが、ながらスマホをしていたらしい。並木に血の跡がついた。近くに居た住人の叫び声が聞こえた。

その事故が遭ってから、僕は携帯を捨てた。


最後に妹と話した卒業式前日。


「明日は卒業式だな結衣。緊張してるのか?」


「だっ大丈夫だよお兄ちゃん。ちょっぴり足が

震えちゃうだけだから。」


「それ、大丈夫じゃないだろ。」


「何か飲むか?ココアでいいか?」


「う、うん。いいよ!ありがとう。」


「おっそうか。じゃ、作ってくるな。」



「お兄ちゃんは優しいね。誰にでも優しいよ。私はそんな風にはなれない。誰にでもいい顔なんて出来ないよ。でもそんなお兄ちゃんが嫌い…」


「何かしたか?」


「うんん!大丈夫、ありがとね!」


「おう!明日頑張れな!おやすみ!」


「うん。お、お兄ちゃん!!!」


「んっ?緊張して寝れないのか?一緒に寝て欲しいのかぁ、もう子供だな〜。」


「そっそんなわけないでしょ///!シスコンしね///!」


「まぁ否定は出来ないな。」


「いやしろよ!」


「お兄ちゃん。」


「うん?」


「お兄ちゃんは青春してね?」


「せっ青春?」


「じゃ、おやすみお兄ちゃん///!」


「お、おやすみ。」


結衣と話したのはこれが最後だった。結衣の笑顔が脳裏から離れないのと共に、葬式で見た顔も脳裏から消える事はないだろう。




玄関を出ると、照りつける太陽が僕の視界を濁らせる。東京の春は早い。腕が少々ヒリヒリした。今日は図書館に行く。勿論調べ物があるからだ。


街の図書館は家からはそう遠くはない。徒歩15分程で着く距離だ。都心部から少々離れているこの地域は生活圏の近くに自然がある。僕もたまに本を読みに訪れる事がある。そこの近くにあるのがここの図書館だ。ここはかなり年季は入っている建物だが、二階建てで中は小さな小学校程広い。沢山の本があって毎週利用している。


こ、これか。


青春(せいしゅん)は、季節の「春」を示す言葉である。転じて、生涯において若く元気な時代、主に青年時代を指す言葉として用いられる。


どういう事だ?春?青年時代?青年時代!


せいねん‐じだい【青年時代】


〘名〙 青年のころ。青年期。一般的には青年後期をいう。

※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「日本の文明は未だ若い、所謂青年時代である!」


青年後期?もうわからん。あーもーなんだよっ

お兄ちゃんは青春してって…

んな事言われても分からないって。こうして今日の1日も過ぎていく。


結衣を失ってから家族は冷めたように静かになった。家族みんな結衣が本当に好きだった。

その代償は今現在も続いている。


ふと涙が零れてくる事がある。思い出してしまう。この現象を何と言えばいいのだろうか。

寝る前やトイレにいる時、食事をしている時、図書館で本を読んでいる今もだ。


泣き虫は大人になれないんだよ!


結衣に言われたっけ…

ああ、苦しい。この感情をどう表せば良いんだろうか。感情は本には書いていない。おい。教えてくれよ誰か…


「少年よ大丈夫か?眠いのか?コーヒーでも飲むか?」


「え?」


秒針が1番高い位置になった時、僕は名前も知らない綺麗な少女と出会った。身長は160cm程で黒くて綺麗な髪の毛だった。肩に掛かるくらいの長さだった。彼女の声色は今まで聞いた事もない優しさに溢れていた。


「あっはい!大丈夫ですよ!眠いだけです!」


「そうかそうか。ところで君名前は?歳はいくつ?」


「えっと、榎木優です。15歳です。4月から高校生になります。」


「じゃあ私の1個下だね。私は西森美咲。16歳ね。近くの高校に通ってる。もしかしたら私と同じ高校に入学だったりするかな?西高?」


「はい!西高です!」


「おっじゃあ後輩ですな。優くん。」


「ゆ、優く、」


「じゃコーヒー買ってくるね!」


「え、あ、はい!」


彼女の微笑みは結衣に少し似ていたような気がした。そう、結衣を透かして見ていたのかもしれない。


出会いと別れは一瞬で、コーヒーをくれたら用事があると言って西森さんは帰ってしまった。連絡先交換しとけばよかった…



視界は暗かった。窓の外は真っ暗だった。時計の針は7を指していた。窓に反射した後ろには誰もいなかった。閉館は7時。コーヒーを飲んだのに何故寝てしまったんだ。


「お客さん。閉館ですよ。」


「はい!すいません!」


おじさんが急に出て来て身震いした。

急いで外に出ると何か違和感があった。違和感と言っても景色がいつもと違う訳では無い。


「お兄ちゃん〜!」



「…な、なんで。」














「なんで結衣が居るんだ。」


不気味な彼女は結衣にしか見えなかった。街明かりが彼女と僕を照らしていた。遠目からでも分かった。あの子は結衣だ。


一瞬目に入った彼女。僕は意識を失った。



3月25日


カーテンの隙間からの光で目を覚ました時には自室のベット上だった。1週間前の僕だった。


僕の奇妙な1週間が始まる。





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