サクラコの学校③

 万策尽きた。もう終わりだぁぁぁぁぁぁ!

 どうやら入学時に学校側に掛かれていた書類に記載されていたサクラコ両親の電話番号はもう変更されているらしい。もうどうすりゃええねん。


鷺ノ宮さぎのみや先生も流石にサクラコの親と連絡取れないのはマズいですよね?」

「……えぇ、そうですね。もし急に体調不良になったりしたら――あれ、喜多さんってサクラコくんの保護者なんですよね?」

「……一応はそうですね」

「一応?」


 ……どうしよう、鷺ノ宮先生には事情を説明したほうがいいだろうか?


「……先生、あくまでこれは俺とサクラコの個人間で双方同意した上で行っている事なんですけどね」

「はい? 急になんですか」

「俺とサクラコには、血の繋がりとかは一切ありません。俺が保護者と言っているのは、サクラコの事情を聞いて、俺に助けを求めてきたから。大人として……友人として見過ごすわけにはいかないので一時的に保護しています」

「……おぉん?」


 先生、混乱していらっしゃる……まぁ、そりゃあそうだよなぁ……こんな話を突然されたら混乱するのも当然だよな。


「えぇと……喜多さんは、保護者と言っているけど親戚とかそういうわけではなく、あくまでもサクラコくん本人に助けを求められたから保護をしている、と?」

「そうです。それに関してはサクラコに聞いてもらっても構いませんよ」

「そうですか……後でサクラコくんには確認するとして……はい、分かりました。とりあえず難しい事は置いておいて、今のサクラコくんの保護者は喜多さんという事ですね」

「え、えぇ、そうですね……えっ、今の説明で納得したんですか?」


 先生は、今の短めの説明で納得したのか?もしそうなら、物分かりが良いにも程があるぞ?


「あぁ、納得と言いますか……サクラコくんは、あれでとても賢い子です。自分で考えて、一人ではどうにもならない状況だと判断して喜多さんに助けを求めたんでしょうね」

「おぉ……」


 どうやら、俺は先生への評価を間違えていたみたいだな。厨二病の痛い人だと思っていたけど、その実はしっかりと自分の生徒を信じてる、立派な先生じゃないか。


「……では、そろそろ教室に戻りましょうか。サクラコくんが待っているでしょうし」

「えぇ、そうですね、戻りましょうか」


 俺と先生は一度話を終え、サクラコの元に戻る事とした。





 教室に戻ると――サクラコは机につっぷして寝ていた。


「おぉいサクコラぉーっ! 寝てるじゃねぇかぁーっ!」

「あははー、やっぱりつまらなくて寝ちゃいましたか」


 俺はサクラコに近づき、揺すって起こそうとしてみる。


「サクラコ起きろー、授業中だぞ」

「……なにさー、面白い夢見てたのにぃ」

「自習で眠くなるのは分かるが、しっかり勉強しなさいな……」


 サクラコはまだ眠いのか目を擦りながら伸びをしている。

 授業中に眠くなるのはめっちゃ分かるけど……俺と先生が教室を出る前はめっちゃ集中して漢字ドリルやってるように見えたんだけどなぁ。


「すまないねサクラコくん。やはり自習では眠くなってしまったかい?」

「うん、だってもう知ってる範囲だったからー」

「知ってる範囲って……もうずっと先の範囲やってるんだけどなぁ。頭が良すぎる生徒も困ったものだね」

「え、ずっと先……?サクラコって今、確か二年生でしたよね」

「えぇ、簡単すぎるとすぐ飽きちゃうので、今はもうどの科目も四年生とか五年生の内容をやってますね。……この内容でももう飽きちゃってますけどね」


 ……マジか。頭良いとは思っていたが、もうそんな先の内容をやっていたのか。あれ、でも夏休みの宿題はもっと簡単だったような……?


「あの、確か夏休み中の宿題はもっと簡単なものだったと思うんですけど」

「うん? ……あぁ!あれは一応学校として夏休み中の宿題は決まっているので、その内容のものを宿題としていたんですよ。だからあれは二年生相当の宿題なので今のサクラコくんにはとても簡単なものになってますね」


 成程、授業としてはずっと先の内容をやってるけど、夏季休暇や冬期休暇といった長めの時に出る宿題の内容はその学年に沿った内容になる、って事か。

 日本は飛び級なんて無いからな。こうなるのも仕方がないだろう。


「……サクラコ、お前やっぱり頭良かったのな」

「どうだー、凄いだろー!」

「あぁ、凄いな。俺はバカだから勉強は苦手だったからなぁ。サクラコは将来有望だな」


 キーンコーンカーンコーン。

 ……うわぁ、懐かしっ。

 サクラコを褒めていると、懐かしいチャイムの音が鳴った。一時間目が始まる前にもサクラコに説教されながら聞いてはいたものの、何度聞いても懐かしさがこみ上げてくる。

 チャイムが鳴ったということは、どうやら一時間目はもう終わりらしい。


「あらら、もう一時間目終わっちゃいましたね。授業らしい授業は出来なかったけど……まぁ、いっか。それじゃあサクラコくん、号令」

「はぁーい。起立、気をつけー、礼。ありがとうございましたー」

「はい、ありがとうございました。次の時間は体育だから校庭に集合ね」

「はぁーいっ!」


 次は体育か……サクラコがどんな授業を受けているのか気になるし、もう少しだけ見学させてもらおうかな。


「先生、もう少し見学させてもらってもいいですか?」

「構いませんよ。好きなだけみていって下さいね」

「ありがとうございます。ってなわけでサクラコ、もう少し……おい、俺がいるのに着替えだすなよ」


 先生に見学の許可を得たのでもう少し授業を見る事をサクラコに伝えようと振り向くと、体操着に着替えるためかサクラコは服を脱ぎだしていた。


「えー、早く着替えないと休み時間終わっちゃうよ!」

「……せめて、俺が教室出るまで待ってくれよ」

「じゃあ早く出ていってよー!」

「はいはい、今出ますよ」


 先生はクスクスと静かに笑っている。いや……うん。一般常識を学校でも教えてくれよ。男がいる部屋で突然着替えだすのはダメでしょうに。

 俺はそのまま教室を出て、廊下で暇を潰す。

 さて、小学校の体育は何をやるのかな。俺は小学生だった頃の記憶を思い出しながら、サクラコが着替え終わるまで待つのだった。




●あとがき

 サクラコちゃん頭良いなっ! 小学二年生にしてもう既に四年生の内容を授業でやっていて、しかもその内容すらも分かっているが故に飽きる……そりゃ、学校つまらなくなりますわな。

サクラコ「先生は面白いんだけどねー」

 まぁ本来学校は勉強する場であると共に友人や先生で社交性を学ぶ場だからねぇ。生徒がサクラコちゃんしかいないんじゃそりゃ面白さの大半が無くなってるようなものだからね。

サクラコ「なんで生徒がわたししかいないんだよもぉーっ!」

 まぁそう言いたくなるのは分かるけども……しゃーないでしょ、そういう設定なんだから。そも、現代日本に生徒が一人しかいない学校が本当にあるのかなんて知らんけど、この物語はフィクションだから大丈夫だな!

サクラコ「フィクションとか言っちゃダメーっ! メタい、メタいよ作者ぁぁぁっ!」

 こらこら、メタいとかそんな言葉どこで覚えてきたの。

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