第2話 悪魔来訪Ⅱ
「私と契約を結べ。お前の願いと引き換えに。」
目の前に現れた角の生えた未曽有の生物が言い放ったその言葉は俺の生活に大きな衝撃を与えた。
「契約? 一体なんの契約だ。」
正直つっこみたい事はいくつもあったが、願いを叶えてくれるというフィクション限定の魔法に惹かれてしまった。
「……そうだな。その前にいくつか説明しておこうか。」
そして大きな羽を部屋一杯に広げて、話を続けた。
「私の名前はベルフェー・モンド。悪魔である。人間界における契約者、細かく言えば私たち悪魔の仕事を代行してくれる人を探していた。」
「あ、悪魔?」
唐突なことだったので、思わず語尾が疑問形になってしまった。
「お前達人間に視認されていないだけで、悪魔は結構いるぞ。まあ基本的に生きている次元、レイヤーが異なるから交わることはそうないが。」
さも当然かのようにベルフェーは答えた。
「じゃあ、その契約を結ぶために俺の前に現れたのか?」
そう聞くと、ベルフェーは眉をひそめて、もともと険しい顔をより一層険しくした。
そして少し億劫そうに口を開いた。
「そのだな、契約を結ぶためというか、実はもう契約は結ばれている。」
その言葉の後に沈黙が続いた。俺は身に覚えのないことに困惑していた。
「はっ?」
こいつは何を言っているのだろうか。
契約とは双方の合意の下で成り立つものだろうに。
「俺は契約なんて結んだ覚えなんてないぞ。大体お前と会ったのは初めてだろ?」
俺は怪訝そうな目でベルフェーを見た。
「いや……まあ、そうなんだが。お前、さっき魔法陣の手形に手を合わせただろ?」
「あぁ。合わせた。」
「それ。」
「えっ?」
「それが、契約。」
渋い顔をしたベルフェーに大きく目を見開いて声を発した。
「あれが契約だって? ただ手を合わせただけだぞ。」
焦り交じりの俺の言葉に、ベルフェーは非常に申し訳ないといった顔をしていた。
「そう、手を合わせるだけなんだよ。」
俺はぽかんと口を開けてしまった。そんな俺を他所にベルフェーは続ける。
「しかも、互いの契約内容を全うするまでの半永久的な契約なんだ。」
もう、口は閉じれなかった。
「いやぁ~まさか手を置くとは思わなかったからなぁ。わ、私も結構動揺しているんだぞ。」
言い訳がましくせこせこと喋るベルフェーを見て、大きな体と威圧感のある顔に似合わない小さい奴だと思った。
しばらく自分の置かれた状況について考えていたが、どうしようもないという結論から避けることができなかった。一方的とはいえ、手を置いたのは間違いなく自分の意志であったため、若干の自責の念も心の隅にあった。それもあってか、諦めながらもとりあえず現状を受け入れることにした。
「分かった。契約しよう。」
しぶしぶ了承した俺を見て、ベルフェーは少し安堵した様子だった。
「本当か!それならば良かった。」
胸を撫でおろした様子のベルフェーに問いかけた。
「そもそも契約って一体どんな中身なんだ?」
「そうだな。じゃあ、まずはこれを手に取ってみてくれ。」
そう言うと、ベルフェーは本を数ページめくり、一本の鎌が描かれたぺージを開いた。そしてベルフェーがその鎌の絵に手をかざすと、また黒い霧が集まってきた。
「これは
霧が形を成したその鎌をベルフェーが手渡してきた。
俺が鎌を受け取るや否や、鎌が眩い光を発しながらベルフェーの言う通りその姿を変えていった。
握っている鎌の柄は愛人の身長ほどまで伸び、刃もそれに比例してみるみる伸びていった。
「これが俺の鎌、俺の武器か。」
その鎌にはすらりと長い刃、峰には金の装飾、そして柄をはさんだ刃の反対側には頭の左に角を生やした人の顔の形をした彫刻があった。
ベルフェーに似た顔の装飾にはいささか不満があるが、俺は数分前のいざこざなどはすっかり忘れ、月の光を鋭く受ける鎌に夢中だった。
ふとベルフェーの方に目を配ると、少し驚いたような顔をして俺の手にある鎌を見つめていた。
「なんだよ。見とれてしまったか?この美しい刃の魅力に。」
ベルフェーは誇らしげに語る俺の言葉をは軽く受け流した後、手元の鎌を一瞥した。
「い、いや。そういうわけではないのだが。」
「んっ?なんだよ。」
ベルフェーの表情が一瞬鈍くなったことが気になったが、それを遮るようにベルフェーが説明を再び始めた。
「その鎌でこの世に残留する魂の現身、アークを狩る。そうやってアークを集めて、アークサイズをどんどん進化させていく。それが悪魔代行の契約者に課せられた使命だ。どうだろう、質問はあるか?」
「要はRPGみたいなもんだろ?アークとやらを狩って、レベル上げてきゃいい。簡単じゃねーか。」
「理解が早くて助かる。次にアークについて説明をしよう。」
そう言うと、ベルフェーは窓の外を向いて続けた。
「まあ、言葉であれこれ説明するよりも実際に見た方が早いだろう。じゃあ行くぞ。」
「行くってどこに?」
「
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