第9話 大胆になる僕の質問

「お前、本当にロマンもへったくれもないんだな」


矢野君が僕の食べる姿を眺めながら目を白黒させて、

あきれた様にそう言った。


僕は矢野君のセリフの中に、

ロマンという言葉が出たことにびっくりした。


手を耳に当てて、聞こえなかったような振りをして、


「矢野君、今君、本当に “ロマン” なんて言葉使った?

僕の空耳?


君の口からロマンと言う言葉が出る事の方が

僕は信じられないよ。」


僕がそばをすすりながらそう言うと、

矢野君は口の端をわずかに上げて僕の鼻をつまんだ。


「何だよ! 俺がロマンなんて言葉使ったら変か?」


「うん、うん、すっごい変!

矢野君のイメージって俺にド~ンとついてこ~い!

みたいな感じで、ロマンスとか全然考えてなさそう……」


僕がまじめな顔をしてそう言うと、


「お前な~ 人の事を何だと……」


と言った後、矢野君もまじめな顔をして、


「普通さ、奢ってあげるって言ったら、

一番高いレストランに行かないか?


俺、お前からどんな高いレストランの名前が出るのか

ちょっと予想してたところはあるんだけど、

それを蕎麦屋だなんて……

まあ、全国の蕎麦屋さんに言ったら怒られるかもしれないけど……」


と言ったので、思ってもいなかった返答に僕は大笑いした。


「ハハハ~ や、それって矢野君の価値観かもしれないけど、

僕は違うから!


それに高い食べ物なんて、今までお目にかかったことないから、

全然出てこないし、外食だってあんまりしたことないからね~


それに奢ってもらう時は、

高いものは強請れないっていう遠慮はちゃんとあるから!


それに沖縄蕎麦試してみたかったし!」


僕がそう言うと矢野君はフ~っとため息を付いて、

何かを思い出すようにして、


「女なんて、たかが食い物やに行くってだけで煩かったぞ?


全然私の気持ち考えて無いのね!ってさ


一体高校生の俺に、何処に連れて行けって言うんだよな?」


そうブツブツと言い出した。


「そうなの? 

僕、女性をエスコートした経験ないから分かんないや~


でも矢野君ってモテるんだね。

一杯デートとかしたことあるの?


もしかして彼女いるの?


あっ! もしかして矢野くんちってお金持ちなの?

だから女子達がたかって来るとか?!」


僕はドンドン、ドンドン遠慮なく

矢野君のプライベートに踏み込んでいった。


「いや、家は大したことないけど……」


“大したことないのか?

αの家ってみんなお金持ちって思ってたけど……


もしかしてご両親はαではないのかな?”


「無いけど何?

もしかしてガールフレンドは一杯いるとか?

良いな~ 僕、生まれてこの方ずっと一人者だよ?


歳の年齢=彼女いない歴って、

もう毎年それが更新されるのが怖くって、怖くって!


あ~っっ! もしかして矢野君ってもう経験アリなの?


だよね、もう18歳だし、カッコいいし、モテそうだし……


ねえ、そうなの? そうだよね?」


僕が興奮した様にしてそう尋ねると、

彼は少し顔色が変わった。


僕はその変化を見逃さなかった。


“ありゃりゃ? もしかしたら失恋でもしたのかな?

とりあえず、彼女の話はNGだな”


僕はその時は呑気にそんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る