第10話 僕の生い立ち

ガールフレンドの話をした後、暫く気まずい沈黙が続いた。


“口は災いの元って言うけど、

僕ってどうして黙ってられないんだ~”


と思っていると、


「お前は施設育ちって言ってたよな?


一体どういう経緯でそうなったのか聞いても良いのか?」


と珍しく矢野君から話を切り出してきた。


別に大した理由ではないから隠す必要もない。

だから正直に話した。


「う~ん、別に大したことは無いよ。

普通に孤児にある、ある・ある話なんだけど……


僕ってさ、βの母親から生まれた私生児だったんだよね~」


すると矢野君は驚いて僕の方を見た。


「何? 私生児って珍しい?」


そう尋ねると、


「いや、聞いたことはあるけど、

俺の周りにはいなかったんだよ。


すまん、差別に受けたか?」


と気まずそうにした。


「いや、全然! どっちかって言うと、

私生児って言うよりも、

施設に居るって言う方が驚かれるかな……?」


そう言うと、少し納得したような表情をした。

彼はちょっと考えたようにすると、


「でもお前って母親はいたんだろ?

亡くなったのか?」


と尋ねた。


「う~ん、やっぱりそう思うよね?


今でこそΩって色々と国から補助が付いてるし、

サポートも色々と凄いじゃない?

至れり尽せりだしさ……


でもやっぱりβの母親にはΩの僕は手に余ったのかな?


ある日、僕を施設まで連れて来て、


“直ぐに迎えに来るからって”


そう言って出て行った後、そのままなのさ。


小さい頃はその言葉をずっと信じて待ってたんだけど、

この年になるともう分かるって言うか……」


「お前、探そうとは思わないのか?」


矢野君のそのセリフに、彼の瞳を見つめると、

僕は首を横に振った。


「ほら、帰ってこないってことは裏を返せば、


“探さないで”


って事じゃない?


僕だってそんな不幸だって感じたことないし、

母親が僕の所へ戻ってこなかったら来ないでもいいかな?って思ってさ。

もう母親がいなくて寂しがる歳でもないし……」


僕がそう言うと矢野君は眉をひそめて、


「でも、もしかしたら迎えに行きたくても、

行けない状況なのかもだぞ?


母親のほうはお前に会いたいって思ってるかもだぞ?

母親って俺たちが幾つになっても母親だからな」


と言ったので、僕は矢野君をパッと見て、


「そう言う考え方もあるんだ~

そうれは考えた事なかったや!


でもさ、それでも何処から取り掛かったら良いか分かんないしさ~

やっぱり母親には自分から出てきてもらうしかないんだよ~」


と言うしかなかった。


「いや、お前、ほら、探偵を使うとか何とかあるだろ?」


「矢野君、君、探偵がいくらかかるかわかってるの?

一緒に住んでる配偶者の浮気調査だけでも何百万と掛かるんだよ?

彼らは行動パターンが分かっててその値段だよ?


それを、何処にいるかも分からない人を探すのって……


僕の経済状況でそんなの出来る訳無いじゃない!

相談料だって払えないよ!


さては矢野君、君、ほんとうはお金持ちなんでしょう!

それを大したことないって!


きっと自分では分かってないんだよ!

僕からみたらきっと君の家も~~~~」


と悶えたようにそう言うと、

矢野君は僕を見て優しそうに微笑むだけだった。


“なんだろう? 矢野君、今日はちょっと雰囲気が違うよな?

僕に心を開いてくれたのかな?


でもまだ芯の話はしてくれてないよな?


どうかな? 後少しプッシュしたら話してくれるのかな?

そうなのかな?”


僕は矢野君のそんな態度にドンドン心が大きくなって

少し大胆になってしまった。


そして


“立ち入り禁止区域”


だったことを聞いてしまった。


「で? 矢野君は?


夜中にうなされる訳、話してみる気になった?」


と……

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