第8話 素顔の矢野君

“どうしよう、どうしよう!

矢野君にお誘いされちゃった~


僕の好きなの食べようって……

グフフ……何食べようかな~


なんだか食欲が出てきて何でも食べれそうだぞ!


ここはお魚が豊富だから、海鮮料理でもいいよな~


イヤイヤ、僕達にはちょっと高いかな?


でもちょっと奮発しても良いやってくらい嬉しいや~”


そう思いながらちょっと財布の中を覗いたら、

500円しか入ってなかった。


“ガッパ〜ン”


僕は鈍器で頭を殴られた様な気分になった。


“ヤバイ、ヤバイ…… 迂闊だった……


海鮮料理どころじゃないや……

これだとハンバーガーも食べれないや……”


まさかこんなチャンスがやって来ようとは夢にも思ってなかった。


別にお金がないと言う分けではないけど、

僕はここに来る前に、一週間の小使いは千円までと決めていた。


この一週間、誰かと連なって出掛ける予定など無かったし、

誰かに誘われる気配さえ無かった。


この千円を取っておこうという意識などない。


だからちょうど一昨日、コンビニでアイスを数個買ったばかりだ。

僕のお小使いはいつもアイスに消えてしまう。


“どうしよう…… どうしよう……


目をつぶってもう千円下ろすべきか?!


それとも外食を断るか?!


あっ、でもこの時間だとATMは手数料が発生するや……


使えない手数料は手痛い!


どうしよう? どうしよう?


選べな~い!”


貧乏丸出しでジタバタしていると、


「お前、遠くから見ると、不審者みたいだぞ?」


と矢野君が僕の足取りに追いついた。


僕は矢野君の顔を見た途端、

どうしたいのか決めた。


そして何の迷いも無く、


「矢野ク~ン、

僕、お金下ろすの忘れてたよ~


財布に500円しか入って無いんだ!


今だとATMは手数料が発生するんだよ~


今日だけお金貸して~

絶対、絶対明日速攻でATMに行ってお金返すから~」


と恥を忍んでATMのたった数百円を

節約することを話した途端矢野君が


「ハハハ〜 お前、貧乏丸出し!手数料がもったいないって……」


とお腹を抱え大声で笑い出した。


僕がキョトンとしてその姿を眺めていると、


「お前、最高だな。大丈夫だよ!


今日は俺の奢りだ。


ほら、まあ、あれだ! いつも迷惑かけてるから……な?」


そう言って笑った矢野君の顔を見た時、

僕の中で何かが弾けた。


「矢野君…… 笑ってる……」


僕のそのセリフに矢野君は気不味そうに僕の顔を見ると、

真っ赤になって先にスタスタと歩き出した。


「矢野君! 待ってよ〜」


走って行って追いつくと、

彼の腕に絡みついた。


「矢野君、いつもそんな顔してたら良いのに〜


凄く人間臭くって僕は好きだな〜」


そう言うと、矢野君は更に照れて早足になった。


それでも僕の絡めた腕を振り解こうとはしなかった。


僕は少し矢野君の事が分かってきたような気がした。




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