第10話 戦場で眠る戦士
No.2 は、女が寝息を立て始めたので驚いて懐中電灯で顔を照らした。
(おい、おい。本当に寝ているぞ)
組織の中でヤバい場面は何度か経験したが、ボスが死に、その
昔、何かの本で、戦場のどのような状況でも寝ることの出来る戦士が生き残ると、読んだ記憶がある。
(戦士か……ハッ、何をバカな事を)
なぜ、女を見て戦士が思い浮かんだのか分からない。しかし、謎の女は自分が知っているどの女達とも違っていた。
始めて見るタイプ。
そんな軽い分類に入れるのが
ギャングも銃もどこか小バカにして、死すら恐れないくせに、敵に止血の方法を教える謎の女。
敵にすれば、ボス1人が作り上げた、この小さな組織など跡形もなく壊滅させられるかもしれない。
貧しさに耐え切れず、幼い弟の首を絞める母を止めてくれたのがボスだった。
家族だけではない。ボスは街中の悪ガキの面倒を見て居場所作ってくれた。それがギャングと呼ばれるようになっても、見て見ぬフリをする世間より、ボスは何倍もまともな大人だと思った。
歳下のめんどうをみれば褒められる。特に坊っちゃんが兄と
いつからだろうか。いつの間にか組織の資金を管理する立場になり、そしてNo.2 と呼ばれるようになった。
坊っちゃんが死ねば自分の存在理由は半分になる。
ボスがいなくなった今、坊っちゃんに何としても生きていて
(謎の女戦士だろうと何だろうと利用してやる……)
だらしなくグッスリと眠る女に見習って目を閉じた。
埃っぽい室内で朝日がキラキラと自己主張している。
(朝…… 寝てたのか)
どのくらい時間がたったのか分からない。
(坊っちゃんは……)
見ると長椅子で横になっていたはずの坊っちゃんの姿がない。その向こうで寝ていた女も消えていた。
眠気が一気にふっ飛び、No.2は飛び起きた。
「坊っちゃん! クソ! あの女!」
女が坊っちゃんを連れ去ったと状況が物語っていた。
「何がトラブルだ! これが目的だったのか! クッソー! ぶち殺しておけば良かった! 寝たフリしやがって! だましたなー!」
銃を握りしめ、廊下に走り出る。
「クソ、どこ行きやがった! ケガ人を連れて遠くへは……」
全速で廊下の角を曲がると、なんと坊っちゃんがこちらに向かって歩いて来ていた。
「坊っちゃん! 無事でしたか……⁈」
ゆっくり歩く坊っちゃんの脇を女が支えている。
「おはようございます」
ミン・ジウは坊っちゃんに肩を貸しながら、トイレに行っていたと言う。
「トイレ⁈ あ、そ、そうか……」
No.2 は腰に拳銃をしまい、反対側の脇を支えた。
ミン・ジウは眉毛を上げる。
「No.2 、もしかして私が坊っちゃんと消えたと思いました?」
「い、いや。俺もトイレに行こうと思っただけだ」
「銃を手に持って?」
「それはー、用心の為だ」
「慌ててましたよね?」
「いいや、坊っちゃんの心配をしただけだ」
「本当ですか?」
「うるさい! 勘違いなんかしてないぞ!」
「思いっきり認めましたねー」
2人の真ん中で坊っちゃんがフフッと、力なく笑う。
「兄貴は、昔から、早とちり、なんだ」
「兄貴? ですか?」
ミン・ジウが首を傾げると、坊っちゃんは額に汗をかきながら、兄弟のように育った仲だと言った。
「坊っちゃん、しゃべらないで下さい。もう少しで横になれますからね」
坊っちゃんは肩を揺らす。
「坊っちゃんと、呼ぶな……って」
「すみません」
「謝るな」
「すみません」
まったくと、坊っちゃんは
徐々に力が抜けていく坊っちゃんを、2人で支えながら、なんとか長椅子に寝かせた。
額の玉のような汗は繋がって流れ落ち、頬は真っ赤にもかかわらず鼻と口の周りの皮膚は青い。
浅い呼吸を口でしている。
「おい、具合が悪そうだぞ」
「悪いんです。3時間前から熱が出始めました」
「3時間前……」
夜明け前から起きていたのかと女を見る。
「やはり期限切れの消毒薬では効果は薄かったようです。人の病院に連れて行かなくては手遅れになります。仲間とは連絡が取れたのですか?」
No.2 は、
追跡を逃れた自分達を敵は
夜明けを待ち、尾行に警戒して合流せよと命令を出してあると言う。
ミン・ジウは肩の荷が降りたと力が抜けた。
(あ〜、これで解放される〜)
そのはずだった。
坊っちゃんが熱に
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