―3―

手を引いて、歩く。そんな俺達を、誰もがぎょっとしたように凝視する。


間垣弥生はあの一件以来めっきり大人しくなって、俺の首を絞めなくなったどころか、時折子供のように俺にくっつきたがる。手を引いているのは、その延長だ。そうするとこいつは何だか安心するみたいだから、手を繋いでる。


俺は、間垣弥生に手取り足取り構うといった。言ったのだから、今さら周囲の反応に羞恥を感じて手を離すなんてことはしない。……こいつの情緒っていうのは、多分子供並みだ。そうだと思えば、可愛いもんだ。







週末には、この全寮制の学園から届け出なく外出できる。とはいえ俺は別に行くところもなく、たまに買い物のために外に出る程度。基本的に、全てはこの学園内で賄える。だから今日明日も、寮でのんびり過ごす予定だったのだが。


「……何で俺まで?」

「だって君、今は弥生の飼い主でしょ?」

「飼い主って言い方するな。お前、こいつの友達だろうに」

「友達でも何でも、弥生が狂犬って事実に間違いはないもん。俺も俺の仲間達も、皆手を焼いてるんだよ」


ミツキの凶行には、と続ける真っ赤な髪の男、というか先輩に引きずられて、どこぞへと街の中を歩いている。当然のように背後には間垣弥生が。前後を不良に挟まれて街とは言っても完璧に裏道を歩く心中は、あるかどうかも知らない裏組織に身売りさせられたモルモットの気分だ。はっきり言えば、びびっている。俺は不良なんかとは縁遠い、喧嘩なんて全然できない一般人なんだ。怖くてもそれが表に出ないのは、ただ虚勢を張っているから。


間垣弥生がどっかの族の総長だっていうことは知ってる。それから想像するに、俺はこれからその族の溜まり場にでも連れて行かれるんだろう。




***




俺が何をしたと言うのだろう。真面目に泣きたい。


「……お前が“川崎保”か?」

「そ、これが件の“川崎保”君。だから言ったっしょ? 外見は期待するなって」


余計な一言だ。けれど今は、目を逸らしてその言葉の主を睨みつけるわけにはいかない。


「……これが、なあ」


予想違わず不良の溜まり場、なバーにて。思いっきり場違いな俺の眼前には、誰だか知らないが間垣弥生に近い威圧感をもつ男。おそらく、俺よりも数歳上だ。二十代になるかならないかというところ。カラフルな頭や目の連中の中で逆に異質な、黒髪黒目。


「あ、んたは、誰で……ここ、どこだ」


恐ろしさを堪えて口を開けば、掠れているそれに途中一度唾を飲み込む。いまだ俺の背後に立っている間垣弥生を見て、男はにやりと笑う。


「よお、ミツキ……」


やけに大人しいじゃねえかと続いた言葉に、背後の体が動く。俺は思わず、その腕にがしっとしがみついた。


「何する気だ? ……まずは返事、手足はその後」


俺の行動に、周囲が瞬間的にざわめいた。どことなく引きつった顔をする目の前の男や赤髪の先輩に首を傾げる。


「……離せ」

「暴れないならな」

「……わかったから、離せ」


そんな会話の後体を離せば、間垣弥生は一人で奥の方へ歩いていった。ほっと周囲から漏れた溜息に、俺は怯えと苛つきが混ざった気持ちで目を眇める。


「……で? 無理矢理連れてきたんだから、質問くらい答えろよ」


標的を黒髪黒目の男に定める。多分、間垣弥生を抜かせば、こいつがこの中で一番だ。


「……」

「おい?」

「あ? ああ、悪い。滅多にない光景に、頭がついてかなかった」

「は?」


うんうんと頷く周囲の者達が、ぞろぞろと伴って輪を詰めてきた。何だ?! と警戒で全身を硬くする。


「まあ、そう硬くなんなよ。別に何もしねえよ。てか、したら死ぬ」

「ああ、だね。死ぬよね。ミツキがこれだけ懐いてる子に手出したりなんかしたら」


皆丁重におもてなししてね、とのたまってくれた赤髪の先輩のおかげで、この場にいる全ての不良がびしっと揃って敬礼した。……何で敬礼っ?!







そうして諸々の疑問に全て回答させた。――ここは間垣弥生、いや、『三月』を総長とする族〈四季〉の溜まり場で、黒髪黒目の男は副総長であり、『如月』と名乗った。赤髪の先輩は幹部の一人で『七月』と書いてナツキ。幹部はあと九人いて、全員月を表す名前を持っているという。もう少し経ったら幹部達も来るから、と今はカウンターで如月と七月って名乗った二人に挟まれオレンジジュースを飲んでいる。アルコールを勧められなくて心底ほっとした。


ここらには、〈四季〉の他に〈白鳳〉や〈garden〉といった族のチームがいくつかあり、それぞれが対立しているらしい。しかも話によれば、〈白鳳〉の総長は学園の生徒会長だ。世界が狭いというか、すごい納得したというか。生徒会長と風紀委員長の不仲は学園内で有名だったが、まさかそんな理由があるとは思わなかった。


――三月率いる〈四季〉、ハク率いる〈白鳳〉、sow率いる〈garden〉――いくつかある族の中で、特にこの三つが台頭している。〈四季〉は凶暴性の高さ、〈白鳳〉は統轄力、〈garden〉は個々能力で対立し、どのチームも他に引けを取らない。しかし特に〈四季〉総長の三月は、化け物じみた強さと容赦のなさで有名らしい。そのため、同チーム内の仲間ですら、その逆鱗を恐れて腫れ物に触るように彼と接する。


だから、その三月に口答えをし、気軽に触って、あまつさえ従わせるなんて人間、信じられないらしい。


「そのせいか……」


さっきからずっと、下っ端不良達の視線が背中に刺さって痛かった。けれどそれがどことなく敵意以外のものに感じて、かなり居心地が悪かったんだ。


「本当、俺もびっくり。俺その時現場にいなかったんだけどさ、君、あの狂犬じみた三月と大立回りを演じたんでしょ?」


何でも階段から突き落としたとか、と言われ、眉を歪める。聞き耳立てていたらしい周囲の奴らの、おお! という歓声が不快だ。


「突き落としてない。……結果的にそうなっただけだ」

「どういうこと?」

「万が一だとしても、俺があいつに勝てるわけないだろ。でも俺は引くわけにいかなかったから、共倒れ覚悟で飛びかかったんだ。結果、二人揃って階段を落ちて、一応俺がマウントポジション取った」


で、言い聞かせた。俺がやったのは、実際それだけ。素っ気なく言えば、十分すごいから!  二重音声で言われた。周りも大きく頷いている。


……間垣弥生は、俺が好きらしい。俺は今、それを逆手に取っている。俺が同じ気持ちを返してやれる可能性なんて低いのに。少しだけ良心が咎めるけど、暴力をふるわなくなるならいいんじゃないかと思う。


子供みたいな奴なんだ。だから、教えればわかる。伝えればわかる。根気よく、丁寧に、誠意をもって。


俺は……間垣弥生が、悪い奴だとは思わない。残虐さは、子供なら誰もがもつものだ。俺が好きなんていうのは気の迷いだとしても、心が育つことで優しさを得たならば。


――あいつが少しだけ優しければ、俺だって……――


思わず、びくっとする。どうした、という目で見てくる二人に、何でもないと頭を振った。




***




その後続々と幹部達が集まり、俺を見て、俺がいる理由を聞いて、同様に驚いてくれた。そして何故か、姫呼ばわり。総長の彼女なら姫だろって、よく見ろ!俺は男だっ!


「男かどうかなんてそんな大きい問題じゃないって。細かいことは気にしない」


いや、細かくないだろ!


そうこう言い合っているうちに、全ての幹部が集まったらしい。十一人のうちの一人、青髪の『神無』が、総長、と奥の方に微動だにせずいる間垣弥生に声をかけた。


「行きましょうか」

「……ああ」


間垣弥生――いや、今は三月か――が立ち上がると同時、和やかだった空気がぴんと張った。どこに行くんだ? と訝しんだ俺に対し、赤髪の先輩・七月が軽い口調で説明した。


「〈四季〉は今から、他チームとの喧嘩。姫はどうしようか。ここで待ってる?」


危ないしと言われるが、ならば元から連れてくるなという問題だ。


「冗談じゃない。なら、喧嘩の前に学園に送ってけ」


ちょっと時間がないねえ、と苦笑される。


「……じゃあ、連れてくか。離れてれば平気だろ」


そう結論を出してくれやがった黒髪黒目・如月に半ば引っ張られるようにして、俺はバーを出た。駄目だ、今日は全然いいことない。


「本当なら、寮でゆっくりしてるはずだったのに……」


苦々しく言った俺を、数人がどうどうと慰めてくれた。不良のくせして、生意気な。







そうして来た先には、何だけすごい数の不良がいる。一体どこのチームと喧嘩する気なんだ、と問おうとしたところ、あちゃあ、と七月が声を上げた。


「〈白鳳〉が嗅ぎつけてきたみたい……三チーム乱闘だよ、今日は」


〈四季〉と〈白鳳〉とどこだ? と首を傾げれば、背後からこそこそと、今日の喧嘩相手は〈garden〉です、と不良の一人が教えてくれた。


「〈四季〉と〈白鳳〉と〈garden〉か。運が良かったな、姫。ここらで最強の三チームが集った喧嘩なんて、なかなか見れねえぞ」


闘争心剥き出しな笑顔をした如月の言葉に、俺は首を横に振るしかない。……暴力は嫌いだ。大っ嫌いだ。


「よう、ミツキ。今日こそてめえの鼻っ柱ぶち折ってやるからな!」


声を上げたのは、銀髪青目の怜悧な美貌をした男。おそらく……学園の生徒会長・白木遼。普段は黒髪黒目だから、今はかつらとカラコンをしているのだろう。両耳に一つずつ光を反射するシンプルな型のピアスを付けている。格好は黒ずくめ。学園内での雰囲気とは大分違うが、声が同じだからすぐわかった。


「はっ……言ってろ」


答える三月が一歩前に出る。俺は二人ほどの下っ端不良に巻き込まれないような位置に連れていかれ、そこから傍観することになった。


そうして始まった、乱闘。叫び声と、人が人を殴る音。物にぶつかって立つ大きな音。罵声。……どうして喧嘩なんてするんだろう? あんなの、痛いだけじゃないか。殴った方も殴られた方も、残るのは痛みだけじゃないか。


でも、俺にはこんな人数を止める術はない。多人数対多人数の喧嘩、これは小さな戦争だ。一人の力でできることなんて限られる。ましてや、こいつらと知り合って間もない俺の存在なんて。


「っ」

「あっ?!」


ただただ歯を食いしばって見据えていたら、俺の横にいたはずの二人から驚いたような叫び声が上がった。何だ、と思って振り返った先に、下卑た笑い。


「……な」

「てめえがミツキの彼女かよ。あいつ、趣味悪ぃ」

「ブサイク~」


ははっと笑う。その数、五人。誰かは知らない、知らないが……、


「でも、お前を人質にしたら、あいつは何もできねえよなぁ?」


ヤバい状況だというのは、わかる。じりじりと下がるが、背後は乱闘騒ぎだ。このまま下がっていけば、いずれ喧嘩の只中。巻き込まれたら、殴る蹴るでは済まない。


でも……、


「逃げるなよぉ? お・ひ・め・さ・ま」


……こんな胸糞悪い下っ端共に捕まるのは、矜持に関わる。そうと決めれば迷わず、踵を返した。


「あっ、おい!」

「待て!」


待つかっ!


突っ切る先の乱闘騒ぎは、一度転べばおそらく怪我では済まない。怖い、怖いが、人質なんて訳のわからないものにされるわけにはいかない。


一発二発なら大丈夫、と騒ぎの中に飛び込んだ。拳が来る。蹴りが来る。間一髪で避け続け、半ば這うようにして進みながら見知った顔がないかと視線を巡らすが、誰も見当たらない。ここには〈四季〉の奴らはいないのか、と頭から血が引くと同時、死角から重い蹴りが一発、腹に当たって、俺は軽々と吹き飛ばされた。


「った……」


立ち上がれないで蠢く俺に、頭に血が上った誰かが再度蹴りを入れる。怒鳴り声、戸惑う声。そいつは一般人だ、と静止の言葉を吐く冷静な奴もいるようだが、容赦ない蹴りはまた襲ってくる。


「ぁ、は、」


痛い、痛い、痛い!


だから喧嘩は嫌いなんだ。暴力なんて、嫌いなんだ。こうやって、痛みばかりが募っていく。痛みは憎しみを作り、敵が生まれる。


涙目で見上げた先に、派手な髪色が沢山踊る。その中の一つが、また足を振り上げる。その顔に浮かぶは、紛うことなき笑みの形。弱い者いじめ、楽しいか?


「や、めろおおおぉ!」


誰かが大声で叫んだのが、聞こえた。




***




ふっと意識が浮上する感覚に、自分が気絶していたことを知る。つい最近知ったこの感覚には慣れないながらも、パニックになるほど慌てることもなくなった。


「あ、起きた! 保、大丈夫か?!」


何か、デジャヴ。俺を見下げるその人物は……、


「そう、ま……?」


相馬奏だと、一瞬思った。が、あいつはこんな顔はしてない。何しろ、俺を心配げに見下ろす奴の顔は、滅多にないような美人だ。白い肌、ふっくらとした桃色の唇。整ったそれぞれの顔のパーツ。瞳は深い青で、髪は金がかった銀。眉毛の色も同じなので、これはきっと地毛。


「ああ、よかった……平気か?気分悪いとか、ないか?」

「……?」


と、あれそういえば、と思う。相馬奏はぼさぼさの黒髪、長い前髪で口元まで隠して、瓶底眼鏡。素顔という素顔を見たことは、ない。


「……やっぱ、り、相馬、奏?」


痛みで出しにくい声で確認すれば、その美人は綺麗な形の眉をひそめてみせた。


「何言ってんだよ? 当たり前だろ」


何故か知らないが、相馬奏は変装していたらしい。もう色々意味がわからない、相当混乱したので目元を腕で覆って小さく溜息をついた。


――さっきまで喧嘩をしていたはずだ。何度も蹴られた腹はちゃんと痛みと熱を伝えてくる。けれど今は、静かだ。どこにいるのだろうか。何故、相馬奏がいるのか。生徒会長はどうした? 間垣弥生はどうなった。


しばらくして、痛みをこらえて身を起こす。見回せば、そこは先程までいた、〈四季〉が集うバーだった。頬や腕に湿布やら包帯やらガーゼやらをつけた不良達が、酒を飲んでできあがっている。


「大丈夫か、姫」


ぼんやりする頭を振って意識を戻していれば、横手から誰かに声をかけられた。見れば、如月がいる。こいつはそんな酷い怪我なんてしないと思ったのだが、頬に張ったガーゼには血がにじんで、随分痛々しい。


「あ、これか? ……ミツキが暴れてな。抑えるのに、手間取った」


見渡せば、幹部だと紹介された奴らは皆、如月と似たり寄ったりな怪我をしている。


「……間垣、弥生は?」


ぽつりと訊けば、如月は無言で店の奥を指した。


「向こうに隠し戸がある。ミツキはその中だ。ハクも」


ハクと言えば、生徒会長であり〈白鳳〉の総長である彼だ。一体何が起きたんだ?と目線で問えば、如月は疲れたように説明してくれた。







俺が倒れているのを見て、まず止めに入ったのは相馬奏だという。相馬奏は何と〈garden〉の総長sowで、学園内での取り巻きABである谷岡と藤田は、その幹部らしい。つくづく、世界は狭い。


sowが大声を上げながら俺を庇いに行ったことで、周囲はその異変に気付いた。ハク然り、〈四季〉の連中然り。俺がぶっ倒れているのを見て、三月はキレた。そうなると仲間ですら関係なく、三月は目につく誰も彼もを倒そうとする。数人がかりで半分気絶させるようにして抑え、他チームの総長であるハクとsowも、今は敵味方関係なしに、ここへ戻って来た……ということらしい。


「キレたあいつは……狂犬だよ。言い得て妙だ」


力の限り暴れて、被害を増やす。


「今は?」

「大分、落ち着いてる。でもまだ、危ない」


逆鱗に触れた奴らは、完膚無きまでに潰されたのだろう。ほらやっぱり、暴力なんて空しいだけじゃないか。……お前はわかってるだろうに、間垣弥生。


「ん、構わない。……連れてってくれ」







間垣弥生はみるからに項垂れて、俺を見るとそっと目を逸らした。その隣でハクが、何とも言えない顔をしている。ただ、俺の部下がすまない、と短く謝られた。最初の五人組か、その後に俺を蹴りつけた奴か。もしくは両方かは知らないが、あれは〈白鳳〉の不良だったようだ。


こくりと頷いてそれを受け、間垣弥生に向き直る。寄ればわずかに後ろに下がり、俺から逃げようとする。


「……弥生」


名前を呼べば、ぴくりと反応する。けれど、こちらを見ない。もう一度。


「弥生、こっち見ろ」


ゆっくりとこちらを見やる、目。多分、他の奴らにはわからないだろうけど、どこか怯えるような目。……いつの間にか間垣弥生の表情が読めるようになった自分が、いる。


「どうしたんだ。何で怖がってるんだ?」


近付けば、また身じろぐ。俺から逃げようとしている? お前、俺が怖いのか。


「喧嘩は嫌いだし、巻き込まれたのもむかつくけど、別に、お前だけに怒ってなんてないよ」


俺に嫌われるのが、怖いんだろう。


「……弥生、こい」


大きく腕を広げて、おいでおいでと招いてやる。気持ちとしては、しょうがないなあという感じ。悪いことをして怒られるのを待つ子供みたいだ。


「いいよ、怒ってない」


弥生、と優しく名前を呼んでやる。すると間垣弥生はふっと泣きそうな顔をして、勢い良く俺の胸に飛びかかった。勿論、支えられるはずもなく。尻もちをつく。


「って……!」

「……すま、ない」

「ああ……うん、いいから」


蹴られた場所は痛いけど、今回のことは間垣弥生に学習させるために必要なことだったと割り切ることにした。安易に人を傷付けることがどれほど重い罪なのか、わかっただろう。


「なあ、痛いのは誰だって嫌だ。だから言葉があるんだろ。話せば、仲良くできるかもしれない。そうでなくても、お互いに譲歩できるかもしれない。そのチャンスを潰すのは、すごく勿体ないと思う」


尻もちをついたまま、腹に腕を回して右肩に額を埋めるその金の髪を、上から下へと何度も梳く。染めてるんだろうに、指通りはいい。肩口から伝わる、体温。


「保……」


囁かれた名前に、どくりと心臓が打つ。これほど必死で求められたことが、あるだろうか。


「痛かった、だろう」


……ああ、どうして! 間垣弥生はちゃんと人を思いやれるのに、こんなに優しく触れることができるのに、何故狂犬だなんて、狂人だなんて呼ばれてしまうのだろう!


「平気……平気だ。ありがとう、弥生」


優しさと残忍さを兼ね備えた、子供の心。俺はようやく、その愛おしさに目を向けた。


今は、俺に対してだけでも。間垣弥生はきっと、もっともっと優しくなれる。――そんなこいつが見てみたい、と強く思った。

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