第33話『孤高の剣聖・2・侵入者』

鳴かぬなら 信長転生記


33『孤高の剣聖・2・侵入者』  







 端午の節句の鍾馗様みたいな奴が家来を引き連れて森から湧き出した。



「お前たちか、この折り紙を飛ばしたのは?」


 鍾馗様が口をきいた。


 言葉が口の動きと合っていない。喋っている言語は日本語ではないけど、英語のアフレコのように耳には日本語に聞こえている。


「意味は通じておるだろう、応えろ」


 グシャ


「ヒ!」


 紙飛行機を握りつぶされ、忠八くんはシャックリみたいな悲鳴を上げる。


「あんたたち、紙飛行機も無いような野蛮なとこから来たみたいね。ここは、そんな野蛮人が来るとこじゃないの。さっさと回れ右して帰んなさい!」


「殿、こいつらの言葉は倭語のようです」


 学者風の冠の男が野良犬を見るような目で鍾馗様に告げた。


「倭?」


「はい、東海の海南にある島国であります。一般に背が低く、文化と呼べるものもないくせに生意気な奴らです」


「そうか、ここは倭人たちの居住地であったか。見れば、風水的にも条件の整った良い土地だ。とりあえずは、このあたりに橋頭堡を確保しよう。この二人は捕虜第一号だ。後で尋問にかけるから縛っておけ」


「殿、今日は捕縛道具を持ってきておりません」


 馬周り役みたいなのが注進する。


「ならば、足の筋を切って転がしておけ」


「承知、おい」


 足軽っぽい奴らが刀を抜いた。


「待て、女の方は、ちょっと可愛いから手荒にはするな」


「いかにも。ならば、女は手足の親指だけを縛っておけ」


「承知、おい」


 足軽っぽい一人が刀の下げ緒を外して寄って来る。


「触るな、下郎!」


 下げ緒を持った手を捻って足払いをかける。


「ウオ!」


「おもしろい、こやつ、可愛いだけではないようだな。だれか、こいつの相手をしてみろ」


 ハイ! ハイハイハイ!


 十人ほどのスケベそうな雑兵が手を挙げる。


 少し数が多い(;'∀')


「かかれ! ただし傷はつけるな!」


 オオ!


「忠八くん、逃げて!」


「織田さん!」


「大丈夫、こんな五月人形みたいなやつらの四人や五人やっつけられる!」


 そう、四人や五人ならね……これだけいたんじゃ、ちょっと焦る。


「女一人に十人もかかってきて、卑怯な奴! そこの大将、名前ぐらい名乗りなさい!」


 名乗らせたところで勝ち目はないんだけど、ムザムザやられるわけにはいかない。


 バカ兄貴なら「是非もない」とか「であるか」とか収まりかえるんだろうけど、あいつの真似はするもんか。


「そうか、では名乗ってやろう。聞いて驚け、我は豫洲汝南郡の名族にして江南の太守である袁紹、その人であるぞ……どうだ、恐れ入ったか。今なら助けてやろう、儂の前に跪け」


「だれが!」


「やれやれ、では、致し方ない。よいか、くれぐれも傷をつけるでは無いぞ」


 オオ!


 転がした奴に蹴りを入れて、飛びかかってきた奴を怯ませ飛び蹴りを食らわせ、空中で足を入れ替えると、次の男の後頭部を蹴り倒す。


「グエ!」


 着地した時点で三人を倒すけど、同時に三人が飛びかかって来る。


 着地しきって勢いがつかず、倒せるのは一人だけ。横に駆ける!


 前に二人、後ろに二人、視界の端、進行方向に一人が立ちふさがっている。


 これでは、手足のどこかを掴まえられて引き倒される。同時に五人に乗りかかられては、万事休すだ!


 こうなれば、たとえ一人だけでも!



 その時、風が吹いた。


 シュッ! シュシュッシュ! シュッ!



 あっという間に五人が倒れた。


「二人とも、わたしの後ろに!」


 言うが早いか、風は、前方で見物を決め込んでいた部隊の真ん中に付き進んで行く。


「押し包んで討ち取れ!」


 学者風がヒステリックに叫ぶが、兵たちは返事をする前に血しぶきを上げた。


 やっと走るのを停めた風は、転生学園の制服を着た二刀流だ。


「宮本武蔵……」


 忠八くんが呟く。


 これが、兄きが言っていた孤高の三白眼!?


 セイヤッ!


 停まっていたのは一秒足らず。切り株を足場に跳躍すると、中央の五人を瞬時に切り倒し、返す刀で学者風の首を切りおとした。


「殿、ここはお引きを!」


 馬周り役筆頭みたいなのが、袁紹に退却を進言し馬首を武蔵に向けたが、袁紹の方を向いていたわずかの間に間合いを詰められ、その近さに驚いたところを真っ向から兜の鉢ごと切られた。


 ズガ!


 二つに割れた兜が宙に舞うと、敵は一気に崩れ、我先にと森の中に逃げていく。


 バサバサバサ


 森の鳥たちが、次々に飛び立ち、その合間に敵の悲鳴があちこちからした。


 数十秒がたって、これで終わったかと思いかけた時、馬首にしがみ付いたままの袁紹が森から飛び出してきた。


「お前たち、あの者を止めろ! 止めたら国の半分をくれてや……」


 最後の一言を言う前に、袁紹の首は飛んでしまい。主の胴体を乗せたまま馬は森の中に消えて行った。



 武蔵は振り返ることもせずに学園の方に歩き去っていった……。





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本武蔵        孤高の剣聖

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