第32話『孤高の剣聖・2』

鳴かぬなら 信長転生記


32『孤高の剣聖・2』  






 あいつ(兄の信長)には言わないけど、こちらには、けっこう長く居る。


 

 その長く居るわたしでも、ここは新鮮だ。


「こんなにいい風が吹いているとは思わなかった」

「うん、一年で十日ほど、とってもいい風が吹いてくる」

「不思議だね、麓の方じゃ南風なのに、途中からは北風になってる!」

「あ、またあ~(;'∀')」

「アハハ、きっもちいい!」


 タタタタタタ…………御山の斜面ををかけ下る。


 フワァァァァ…………南の向かい風に体が持ち上げられるよう。


 クルリと向きを変え、風に背中を押えられて斜面を駆け上がる!


 タタタタタタ……ここだ!


 ピョン!


 ジャンプすると、ほんの一瞬なんだけど体が持ち上げられて飛んで行きそうになる。


 フワリ……ドテ!


 むろん、鳥や蝶々じゃないから、一瞬の浮遊感のあとは、そのまま落っこちる。


 でも、その一瞬の浮遊感が、とても爽快で嬉しくて、さっきから五回もやっている。


「ダメだよ、怪我したらどうするんだよ」

「大丈夫!」

「大丈夫じゃないよ、織田さんになにかあったら……」

「なにかあったら?」

「えと……信長さんに殺される」

「だったら、その前に、あたしが殺す」

「ええ!?」

「やだ、忠くん殺したりしないわよ。あたしが信長殺す!」

「そんなあ~(^_^;)」

「あいつ、信行兄ちゃん殺してるからね、一回くらい兄妹に殺されりゃいいんだ」

「あはは……」

「アハハ、忠くん真面目ぇ~、本気になんないでよ」


 実は本気さ。さっさと生まれかわって、もっとましな信長の人生歩んでくれなきゃ、血を分けた兄妹とか身内とか殺さなくていい信長の人生をさ……


「さ、そろそろ飛ばそうか」

「あ、そだね、紙飛行機飛ばす前に、あたしが飛んで行ったら困るもんね」

「いくよ」

「うん……あれ、ここでいいの?」


 二宮忠八なら、もうちょっとタイミングやらベストポイントを探るかと思った。わたしがジャンプした場所で、躊躇なく紙飛行機を構えた。


「うん、織田さんがジャンプしたところがベストだよ。織田さん、ポイント掴む勘が、とってもいい」

「アハ、そうなんだ!」

「はやく、すぐにいい風が来る!」

「うん!」

「待って、あと三秒……今だ!」


 えい!


 フワワァ~


 二機の紙飛行機は生まれたばかりの上昇気流に持ち上げられ、斜面でクルリと巻き上げられた追い風に、どんどんスピードを上げて飛んでいく。


 なんだかこみ上げてくるものがある。


 自分が生み出した紙飛行機、それが、わたしが選んだベストの条件で飛んでいくよ。


 いけえ! いけえ! 飛んでけええええええ!


「織田さん、視界没になるかも!」

「ほんと!?」

「追いかけるよ!」

「あ、待ってぇ!」


 日ごろ鈍重な忠八くんが、すごい身の軽さで斜面を駆け下りる。


 地面は、チラッと見たきり。


 上空の紙飛行機にピタリと目を付けて、バランスとるために、自分自身紙飛行機になったみたいに、両の手を横に伸ばして、切り株とか、まるでレーダーで見てるみたいに軽やかに走っていく!


 やっぱり二宮忠八は神さまだ。


 わたしも、視界の端に忠八くんをとらえ、自分の紙飛行機を追いかける。


 野を超え、小川を超えて、それでも紙飛行機は飛んで行き、ここを超えたら未知の領域的な南端の森の手前で落ちた。


「すごいすごい、国境まで飛んできちゃったよ!」

「ほんとだ!」


 紙飛行機を手に振り返ると、御山が、今まで見たこともないほど小さく見えている。


「『舐めんな、紙飛行機!』って、感じね!」

「うん、織田さんが、ベストのタイミングとポイント見つけてくれたからだよ!」

「エヘヘ、そうかな~(n*´ω`*n)」


 カサリ……背後の森で音がした。


 え?



 振り返ると、とんでもないやつらが森から出てくるところだった。





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本武蔵        孤高の剣聖





 

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