第11話『スコーンとジャム』

鳴かぬなら 信長転生記


11『スコーンとジャム』   







「利休、そのボブヘアーの下はつるっぱげか?」


「あら、どうして?」


「利休と言えば坊主頭」


「ホホ、坊主は信玄君もそうじゃない」


「信玄は、毎朝、小姓に剃らせていた」


「知っていたのか、信長?」


「ああ、情報網は張っていたからな」


「さすがは信長だな」


「フフ、川中島で一騎打ちの時は、小姓たちも出払って、禿げ頭がカビが生えたようになっていたわね」


「一騎打ちの時は兜を被っていたぞ」


「直前まで、兜を脱いで汗を拭いていたじゃない(^_^;)」


「謙信、なんで、それを!?」


「歴史に残る一騎打ちよ。信玄が準備できるまで待っていてあげたのよ」


「そ、そうなのか!?」


「信玄の頭が生禿で、産毛がそよいでいたなんて、歴史の本に書かれたくないでしょ」


 アハハハ ワハハハ ホホホ


 茶会の席は、暖かい笑いに満ちた。




「利休のように転生しても同じ道を進む者はいるのか?」


 俺は、二つある疑問の一つを投げかけた。




「さあ、どうでしょう? 転生した人を全部知ってるわけじゃないし、わたしのお茶も変化しつつあるし」


「そうだな、天下の利休が紅茶を淹れてるんじゃからな」


「信玄がクリスチャンになるようなものね」


「儂も、クリスマスとかバレンタインは好きだぞ」


「紅茶だけじゃないわ、今度は、ジョギングの後にお茶会をやってみようと思うの」


「それは面白いかもしれないわね」


「儂はビールがいいなあ」


「信玄君は、お酒控えた方がいいわよ」


「つれないことを言うな、利休」


「自分が女子高生だってこと忘れてるでしょ」


「膝が開いてるわよ、信玄」


「ワハハ、まだスカートには慣れないんでな」


 美少女の親父言葉はそぐわないのだが、この信玄坊主は、そこがえも言えぬ味になっている。


 転生というもの、取りあえずは面白い。




「茶うけのスコーンが焼けました」




 お!?




 不覚にも驚いてしまった。


 古田(こだ)とスコーンの出現が唐突だったからだ。


 スコーンは、焼き立ての香ばしい匂いがしている。近くで焼いていたのなら匂いがしてくるはず。


「ホホ、オーブンを風下に置いていたのよ。いい匂いだけれど、早くから匂いが立ち込めたら気を取られてしまうでしょ」


「おお、さすがは利休の弟子だ!」


「話の邪魔にならないように、気配も消したのね」


「そうか、頭の汗を拭く間、待ってくれていた謙信と同じだな」


「いい弟子を持ったな、利休」


「褒められちゃったわよ、古田(こだ)さん」


「恐れ入ります。スコーンは、こちらのジャムを……」


「塗るんだな(⌒∇⌒)」


「信玄、まだ説明の途中よ」


「よいではないか、一つくらい……うん、そのまま食べても美味しいぞ。ビールのあてにいいかもしれん!」


「ジャムは塗るのではなく、載せるようにしていただき、紅茶を含んでいただければ、美味しさが引き立ちます」


「そうか、では、さっそく」


 ジャムは、一人ずつ意匠の違う器に入れてあり、飾り気のない銀のスプーンが付いている。


 俺のは、ガマガエルがユーモラスに口を開けている意匠の焼き物だ。


「ホホ、信長君のがいちばん沢山入っているようね」


「そうなのか?」


「いえ、たまたまです、たまたま……」


「なかなかゆかしい。古田(こだ)さん、あなた、なかなかの粋人ね」


「恐れ入ります」


「この、ジャムとスコーンの塩梅は絶妙だな!」


「信長、儂のジャムも食っていいぞ」


「い、いいのか( ゚Д゚)、信玄!?」


「ああ、一番おいしいと思う者が一番多く食べればいい」


「ホホ、そんなの譲っても、アルコールは出しませんからね」




 菓子と甘いものに目が無い俺は、もう一つ、肝心の事を聞き忘れた。


 まあ、今が美味しければ、いいか。





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた

 熱田大神        信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生



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