第12話『夕陽に映えて』
鳴かぬなら 信長転生記
12『夕陽に映えて』
部活を終えて昇降口に向かう。
信玄も謙信も寄るところがあると言うので、茶道部の茶亭を出たところで分かれている。
信玄は土木研、謙信は宗教研あたりに行ったのだろう。
がっついた気配はないのだが、二人とも、なかなかにアグレッシブに高校生活を送っているようだ。
我が転生学院高校は、ちょっとした高台の上にある。
むろん、街の中央にある御山ほどの高さではないが、高層建築の少ない街ではランドマークになる程度に座りがいい。
おお、瓦屋根だったのか。
壁面が夕陽に荘厳されるように照らされ、屋根瓦は釉薬がかかっているのだろう、渋い山吹色に煌めいて美しい。
規模的には清須城、美しさでは安土城、屹立する佇まいは岐阜城に通じるものがある。
きっと、近所の住人たちからも街のシンボルとして愛されているに違いなく、百文ほどの入場料を取って見学させてやったら喜ぶだろう。この時代は円だから百円……ちと安いが、タダではありがたみが無い。やるだけの価値はあると思う。
ドスン
校舎に見惚れていたので、だれかにぶつかってしまった。
「す、すみません!」
前世から、人に謝るという習慣がないので、ひっくり返った女生徒を見ていると、向こうから謝ってきた。
「うむ、気を付けよ」
鷹揚に応えてから気づいた。茶道部の古田(こだ)だ。
「なんだ、古田(こだ)か」
俺も急いで出てきたわけではないが、部活が終わったばかりなのに、ここにいるのは、ちょっと不思議だ。
「はい、この時間の学校は、一日でいちばん美しいので見逃せません」
見れば、大事そうにデジカメを抱えている。写真ならスマホで間に合うだろうに、ひょっとして写真部と兼部しているのか?
「アハハ、やっぱり、写真はカメラで撮りませんと、被写体に失礼です」
「そうなのか?」
「はい、茶道と同じだと思います。ペットボトルや紙コップでお茶を淹れたら台無しなのと同じだと思います」
「であるか」
分かる気がする。戦に行くときも、ダサい鎧兜ではやる気がそがれる。
「校舎の屋根瓦は、中国の紫禁城と同じ瑠璃瓦なんです。校舎の壁面もアンバーホワイトで、とても上品で、かつ温かみのある景色なんです。特に、この時間の姿は絶景で……すみません。まもなく日が陰りますので」
「うん、励め」
ペコリと一礼すると、学校を乾の方角から望めるわき道に入っていった。
いささか物狂いしたところが面白い奴だ。
こういう奴を前世でも見たような気がするのだが……。
おっと、夕飯の用意。
冷蔵庫にあるものと、メニューのあれこれを比較……よし、今日はストックしたもので間に合うか。
ウワアアアア!
家の近くに差し掛かると、公園から悪ガキどもが逃げてくる。
殺虫剤を掛けられたばかりのゴキブリのようで、面白くもおぞましい。
ん?
こいつら、この間、市とつるんでいた中坊どもだ。
公園でなにかあったか?
ちょっと予感がして、道端の自販機で缶コーヒーを買う。
ピコピコピコピコ……パンパカパーン!
電飾が煌めいて、ファンファーレとともに『大当たり!』の文字が点滅。
よし!
小さくガッツポーズして、もう一本同じ缶コーヒーをゲット。
公園の入り口に差し掛かって、予感が当たった。
ジャングルジムの天辺に、パンツが見えることも厭わずに屹立する妹の姿があった。
元来が俺の妹、こういう孤高の姿もさまになる。
ただ、西日に照らされた目には光るものがある。
「飲め」
それだけ言って、缶コーヒーを投げてやる。
あやまたず、缶コーヒーは妹の眼前で放物線の頂点に至る。
そいつをハッシと馬手(右手のかっこいい言い方)で捉えると、壮絶な美人顔を俺に向けてきた。
おにいちゃーーーーーーん!
妹は缶コーヒーを持ったまま両手を広げ、俺に向かってムササビのように飛び降りてきた。
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で打ち取られて転生してきた
熱田敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
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