第10話『天下布部のお茶会』

鳴かぬなら 信長転生記


10『天下布部のお茶会』   







 一つぐらいは同じ部活をやろうということで、天下布部の三人で茶道部に向かった。




「茶道部に行くのは初めてなのか?」


「ああ、前世ではさんざんやったからな」


「飲むものと言えばお酒よ。信玄の言う通り茶道は人付き合いの手段に過ぎないからね」


 二人とも茶道が確立する前に死んでいる、そろって酒豪でもあるから、興味が薄いんだろう。




 茶道部は校舎裏の竹林の中にある。




「寺の山門に似ているわね」


 山門は二層のこけら葺きで、軽やかな印象なのは女子高のせいか。


「恵林寺の山門に似ている」


 信玄が呟いて思い出した。


 俺の意に逆らって六角義弼をかくまったので、寺の坊主ごと焼き払ってやった。


 心頭滅却すれば火もまた涼し……強がりを言って焼け死んだのは何という坊主だったか。


 打ち水をした飛び石の向こうに茅葺の茶室。


 茶道部に足を向けることを決めたのは、ついさっきなのだが、準備が整った様子。


 信玄か謙信のどちらかが見越して連絡を入れていたのかもしれない。


 まあ、この二人なら、それくらいのことはするだろう。




「あら、珍しい人が来たわね」




 茶室の裏から回ってきたのは、ショートカットが似合う三年生だ。


「ああ、一つぐらいは同じ趣味を持とうということになってな。こちら、転校生の織田信長だ。信長、この三年生が千利休だ」


「千利休……」


「はい、待機時間が短かったので」


「待機時間?」


「ええ、一瞬に思えるけど、死んでからこちらに来るのは時間があって、人によって違うみたいよ。それで、織田君よりも先に、こっちにきたみたい」


「であるか……信長だ、よろしく」


「ん、茶室は閉まっているの?」


 謙信が変なことを言う。


「分かった?」


「炉に火が入っていれば、窓から微かにでも陰ろひが窺えるんだけど、それがないわ」


「今日は、お紅茶の日なの。それでよかったら、東屋の方にいらして」


 紅茶……ああ、伴天連の茶か。


 茶室のある竹藪を抜けると、芝生の庭になっていて、アイボリーと淡いピンクの東屋が見えてきた。


「古田さん、お客様の分もご用意お願い」


 利休が声を掛けると、お下げの一年生が顔を出した。


「いらっしゃいませ、ちょうどお湯が沸いたところなので、すぐにご用意します」


 東屋のテーブルに着くと、すでに伴天連の茶器が用意してある。


「お知らせ頂いていたら、マイセンとかご用意したんだけど、今日は茶道部の普段使い。ごめんなさいね」


「そのぶん、お茶の葉は届いたばかりのハイグローブです」


「ああ、プリンスオブウェールズブランドのお茶ですね」


 謙信は紅茶についても見識が深いようだ。信玄は、ただニコニコと座っている。


「新しいお茶を開ける時は、ワクワクしますね。それじゃ、古田さん、開けてもらえます!」


 利休が子どもっぽく時めいている。


 知っている利休はこうではない。伴天連のお茶を開けてみると言うワクワク感を演出しているのだろうか。


「それでは……」


 パシュ


 小気味よく、一閃で封を解く。


 この鮮やかさ……ただの一年生ではないな。


 


☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた

 熱田大神        信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生





 


 

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