第7話 速水 純潔 早太郎

 俺が次に覚醒した世界はちゃんと色づいていた。俺以外の生命体もたくさんいる。その生命体は人型で、皆一様に驚愕の表情を浮かべている。


「は、ハヤミ君が……え、嘘」


「いつも虐められてばっかのハヤミが」


「ありえない」


 どうやら俺は注目の的らしい。ただ一つ、言わせてもらうとすれば…………驚いてるのはなにも君達だけじゃないからね? だ。


 ここどこおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ! あんたら誰ええええええええええええええええええええええええええッ! そんでもって俺は速水早太郎だと自信を持って名乗っていいんですかああああああああああああああああああああッ!


 新しい情報が舞い込みすぎて処理が追いつかない。俺の脳が悲鳴をあげている。


 俺の知らない顔や服装やデザインや景色……その他諸々、なにもかもが新鮮すぎて発狂してしまいそうだ。


 たとえるならそう、知らない中学校の同窓会に顔出しちゃったみたいな……いやなんか違うな。一生縁のないと思っていた乱〇パーティーの会場にいきなり一人で召喚されたみたいな……あ。ごめんやっぱたとえるのナシで。


「な、なにしてくれてんだよテメェッ! あぁッ? ソータローッ!」


 とここで、ついさきほど俺が殴り飛ばしたマッシュヘアのゴリラが頬を押さえながらむくっと起き上がり、威勢よく唾を飛ばしてきた。


 童貞とコケにされてついカッとなってしまったが、悪いのは俺の方だ。向こうは言葉の暴力まで、対してこっちは暴力そのものをぶつけてしまったんだから。


 直前まで髪の毛を引っ張られてたけど気にしちゃアカン。ここは素直に謝っておこう。


「あの、ほんとすいませんでした」


「いくら謝っても許さねぇ。過ちじゃ済まさねぇ。誰を殴ったのか、その身でわからせてやるよ」


 え、まさか――ほ、掘られるッ⁉


 舌なめずりしているマッシュゴリラを見て、背筋に冷たいものが走る。


「え、えと、マジで勘弁してくれませんかね? ちょっと、そういうのはNGなんで」


「テメェに拒否権はねえ」


「そ、そんなぁ……それじゃ、心の準備をするのでいくばくかの猶予をいただけないですかね?」


「やるわけねえだろんなもん。俺が準備できてりゃそれでいんだよ」


「…………強引な人。わかりました。但し、手順はちゃんと踏んでもらいます。浣腸はお持ちで?」


「はぁ? なにわけわかんねえこと抜かしてやがんだ……舐めてんのか?」


「まだ舐めませんよ……やれやれ、その様子だとお持ちではないようね。ちょっと待ってなさい――薬局行って買ってくるから」


 それだけ言い残し、俺はマッシュゴリラに背を向けた。


「――逃がすかよ」


 室内から出ようとした時、後ろから物凄い速さでなにかが飛んできた。そのなにかは俺の顔の横スレスレを通り、やがて目の前にある扉に鈍い音を立てて突き刺さった。


 ――矢、か? しかも木製じゃなくて石でできてないか? あれ。


 足を止めるのには十二分なインパクト。俺は恐る恐る石の矢が飛来してきた方向を振り返る。


「ソータローちゅわぁん」


 マッシュゴリラが口角を上げてこちらを見つめている。しかし目は笑っていない。


 俺はもう一度、石の矢に視線を戻してから、再度マッシュゴリラに顔を向ける。


「ソータローちゅわぁん」


 ……………………。


 やはりマッシュゴリラは笑っている。しかし目は笑っていない。


 えっと……なんだ、これはつまり……。


 俺は顔を上に向けて両手で目をおおう。


 ――俺のア〇ルに真っ赤は花を咲かせましょうってことですかああああああああああああああああああああああああああああああああああッ⁉

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