第6話 ソータロー・ハヤミ⇒速水早太郎
「おいおい教室の入り口前でなにしてんだよ~。ほんとやめてくんない? そういうの。見てるだけで吐きけ
「確かに、さぶいわな」
「…………不快にさせて、ごめん」
僕はその場で向きを変えてザギウス君とラビィ君、二人に頭を下げました。
けれどザギウス君の機嫌が直ることはなく、むしろより悪くさせてしまったようで――、
「そういう小動物みてーな態度が――気に食わねっつってんだよッ!」
怒号を放ちながら机上を思いっ切り叩いたザギウス君は、額に青筋を立てて風を切るように僕の方へと向かってきます。
ザギウス君の体格は学内で一位二位を争うくらい良く、近づいてくるにつれて迫力を増していきます。
「ソータローッ――」
「おっと、エマお母さんはじっとしててね」
振り返った先ではラビィ君がエマの両腕を掴んで捉えていました。恐らく、簡易的な転移魔法を使ったのだと思われます。
「ちょっと……放しなさいよッ」
「チッ、暴れんなって――――それと」
めんどくさそうな顔してエマを取り押さえているラビィ君と目が合う。
「ソータローちゃんは自分のことを気にした方がいいよ」
「え――」
ラビィ君の言った意味はすぐに痛みとなって知らされることになる。
「――よそ見してんじゃねえぞソータローッ!」
後ろから髪の毛を引っ張られ、無理矢理ザギウス君と正面から向き合わされます。
エマが必死に僕の名前を呼んでますが、正直そんなことどうでもいいと思えてしまうくらい痛くて仕方がないです。
「気に食わねぇ、あー気に食わねぇッ! 同情を誘うやり方もそーだが、一番気に食わねぇのはテメーがこの学校にいることなんだよッ! なんでここにいんの? 魔法もろくに使えないカスがなんで?」
「…………ごめん」
「謝罪じゃなくて答えてくれよぉ……恥ずかしくないのぉ? 魔法の名門であるオパイオニア魔法学校に無力として通ってることがさぁ」
「…………ごめん」
「入学したての頃はソータローちゃん期待されてたじゃぁん……なんだっけ? 〝賢者に至れる可能性を秘めた新入生〟だっけ? あん時は過剰にもてはやされてたよなぁ、お前」
「…………」
「ま、蓋を開けて見りゃ魔力量だけがいっちょまえで肝心の魔法がてんでダメな宝の持ち腐れ野郎だったけどな。つかぶっちゃけ賢者とか大したことねーだろ。古い考えの奴らが神格化してるだけ、俺様から言わせりゃあんなもん、ただのモテない〝ドウテイ〟だぜ……あ、ごめんごめん君もまだドウテイなんだよな? ソータローちゃん!」
基本僕は、感情というものを荒立てたりしません。寛容な精神の持ち主というわけではありませんが、大抵のことは許せます。多分、自分に対して向けられる言葉を、他人事のように流してしまっているのだと思います。
けれど、今のザギウス君の発言は到底許せるものではありませんでした。
「…………今、なんて言った?」
「お? お? 賢者を愚弄されて怒っちゃいまちたか? ソータローちゅわぁん」
「違うッ! そっちじゃないッ!」
「え、そっちじゃないの?」
え、そっちじゃないの?
自分で口にしておきながら、キョトンとした顔で聞き返してきたザギウス君とまったく同じリアクションを僕は心の中でしました。
ぼ、僕は、ザギウス君の言った通り賢者を愚弄されたことが許せなかったのに……どうして?
自分の意思に反して勝手に口が動いた……と言えばいいのでしょうか? 僕の中に違和感のようななにかが
「い、いやいやいや、賢者を
あり得ないといった様子のザギウス君。もちろんそえです、僕はそっちに怒っているんです。
だけど――。
「そっちじゃねえって言ったんだろ」
僕の体は僕からの指令を受け付けてくれません。
「〝俺〟が許せねぇのはな……」
予感がします。
「お前が俺を」
一寸先の自分が……いやソータロー・ハヤミという自我が消えてしまう、
「――童貞扱いしたことだぁッ!」
そんな……予感が。
「俺はもう……童貞じゃない」
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