第32話 僕たち
『
南沢から送られてきたLINEを再度見直す。
現在の時刻は19時55分。集合時間の5分前に俺は小宮駅に到着した。
「――速水君ッ、こっちよ」
改札を出るなり名前を呼ばれた。声がした方を見れば黒のノースリーブワンピースを身に纏った南沢の姿が。
なんともまぁ〝
俺の繊細なムスコが敏感に反応しビンビンになる。今日も今日とて平常運転だ。
「あれ、てっきり同じ時間の電車に乗ってるかとばかり思ってたけど」
「一本早いので来たのよ。私、常に時間に余裕を持っておきたいタイプの人間だから」
「さいですか」
南沢の言もそれなりに、俺はもう一度彼女を上から下まで見回す。
ダークな色合いがより南沢の雪のような肌を引き立たせている。日光を浴びただけで蒸発してしまいそうなほど危うい白さだ。
それよりなにより脇がエロすぎだろ。なんだあのちょっと肉がハミュってしてる感じ。堪らなすぎだろあれ。あ~嗅ぎたい舐めたい脇コキされた~い。
「童貞君には刺激が強すぎたかしらね?」
と、小馬鹿にするような言ってきた南沢。
俺はすぐに南沢から視線を逸らす。
「は、はぁ? んなことねーよ。ちょっと肌が露出してる程度の格好でいちいち興奮しないっての。自意識過剰すぎだろ」
「あら? 私、〝格好〟とは一言も言ってないけれど?」
「ぐ――」
視線を戻さずともわかる。南沢が勝ち誇った表情をしているのが。
「それに――」
「おふッ」
視界の端で南沢が距離を詰めてきたのが見え、なにをしてくるのかと慌てて構えたが遅かった。
南沢は俺の胸に顔を埋めるようにして抱きついてきた。が、問題はそこじゃなく、俺のムスコの容態を確かめるように触ってくるいけないお手手の方だ。
「お、おいなんだよ急にッ! 我慢できなくなったのか?」
「そんなわけないでしょ? 速水君じゃあるまいし……」
彼女はすぐに俺から離れた。くっついていたのは時間にして数秒だ。
何人かこっちを見てきたが、立ち止まって凝視したりわざわざスマホを取り出してレンズを向けてきたりする人間はいなかった。
「興奮していないと
「ち、ちがうからねッ! これはその、これからのことを想像してつい反応しちゃっただけであって、別にお前に興奮したわけじゃないからねッ!」
「それ、もはや私で興奮してるものじゃ……」
「断じてない! ――それより立ち話もなんだから、もう行かね?」
俺が頬を掻きながらさりげなく話をかえると、南沢は心の底から呆れたような顔して言葉を返してきた。
「こんなことを童貞のあなたに求めるのはお門違いかもしれないけど、もう少しどうにかならない?」
「なにが?」
「雰囲気作りよ。今のあなた、やりたいが先行しすぎていて正直気持ち悪いわ」
「はっ、そういうのは経験を重ねることで次第に身に付いていくスキルだろ? 初めての俺にそんな芸当できるわけがない。これは他のことにも通じるからよく覚えておけ」
「開き直り方のクセがとてつもないわね。呆れを通り越して尊敬するわ」
「どう思われようが結構。さ、俺を卒業式の舞台へ案内してくれ」
そう言って手を差し伸ばすも、南沢は見つめるだけで一向に掴もうとしない。
「どうした? まさか怖くなってきちゃったとか言い出さないよな?」
俺が訊くと南沢は顔を上げて視線を合わせてきた。
「いいえ。ただ速水君に伝え忘れていたことがあるの」
「……なんだよその伝え忘れていたことって」
「そう警戒しなくてもいいのよ? 速水君にとってはきっと朗報だから」
「いやだからもったいぶってないで早く言えって」
そう俺が急かすと、南沢は微笑を浮かべて一拍間を置いてから口を開いた。
「私と速水君の他に〝もう一人〟加わることになっているのよ」
「はあッ⁉」
「――そしてその人物は」
間髪入れずに返してきた南沢は俺の後方を指差し言葉を続ける。
「あなたのすぐ後ろに――」
言うが早いか、俺は南沢の言葉を最後まで聞かずに振り返り――そして、
エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
内なる俺が叫んだ。
「な、なによ……なんか文句あんの?」
「ど、どうしてここに〝伊織〟が……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます