第20話 逮捕しちゃうぞッ4

「お、おいおい……しながらって本気で――うぐっ⁉」


 喋ってる途中で俺の口は塞がれた。南沢の右足、より正確に言えば足の裏によって。


「そうそう、言い忘れていたけれど、ここから先は基本的に速水君に発言権はないわ」


 ど、どうしてだッ⁉ ちょっぴり汗で湿っているのに、全然臭くない! むしろ良い匂いまであるッ!


「……人の話聞いてる?」


「――ブグググッ!」


 不満げな顔してグリグリ足を動かす南沢に対し、俺はコクコクと首を縦に振った。踏みにじられてる感じが凄く良かった。


「よろしい。それでさっきの話に戻るけど、基本的にということはつまり例外もあるということ」


 俺は首を傾げて南沢に続きを促す。

「私が問いかけた時だけ速水君に発言を許す、それ以外は一言も……いえ、声を発してはダメ。ちなみに私が発したとみなしたらその時点で終わりだから。わかった?」


「――ンンンンンッ!」


 ポンと後だしで厳しい条件を突き付けてきた南沢に、俺はかぶりを振って抗議の意を示した。


 が、しかし――、


「そう、話が早くて助かるわ。それじゃ、今から開始で」


 俺が言語化できないのをいいことに南沢は都合よく解釈する。


 これを理不尽と呼ばすになんと呼ぶ? わかる人いたら教えてくれ。


「そうね……どこから話そうかしら」


 視線を上に向けなにやら考えている様子の南沢を、黙ってることしかできない俺はじっと見守る。


 ……おいマジかよ。


 その動きをおれはバッチリ捉えていた。手持ち無沙汰ぶさたならぬ〝足持ち無沙汰〟そうにブランブラン揺れていた南沢の〝左足も〟――俺の顔面目指して伸びてきたことに。


 ――――ッ⁉


 彼女は俺の口を塞ぐのみならず、視界をも奪ってきたのだ。


「目的だけというのもなんだか味気ないし……」


 そして南沢はうどんを足でこねるかのように俺の顔面をもみくちゃにしてくる。


「やっぱり、経緯も話すべきよね」


 おいおいおいッ! なんだこれなんだこれなんだこれッ! ――意外と悪くないぞッ!


 衛生的にどうなのそれ? って疑問の声を度外視どがいしにし、声をからして叫びたい気持ちに駆られる。


「ねぇ、速水君もそう思うわよね?」


「………………」


「私が問いかけているのよ? 喋りなさい」


「………………」


「あ、ごめんなさい。今の状態じゃ喋れろうにも喋れないわよね」


 南沢のわざとらし口調で言ったすぐ後、両足をどけた。


「すぅ…………はぁ…………」


 俺はうつむいた状態で一度呼吸を整える。


「さぁ……聞かせて?」


 ゆっくりと顔を上げ、催促してきた南沢の瞳を見据え――俺は口を開いた。


「悪く、ないだろう」


「そう、わかったわ。それじゃ、経緯から話しましょう。あ、速水君は黙ってなさいね?」


 そして再び、彼女の右足は猿轡さるぐつわの役をになって俺の口を塞いだ。


 うん……やはり……悪くないだろう。

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