第19話 逮捕しちゃうぞッ3

 状況を説明しよう。俺は今、後ろ手に手錠をかけられている。


 足は動かせる。が、逃げたところでだ……こんな姿を他の人間に見られたらアウツ。


 たった一つのかせだけで人はここまで行動を制限されちまうのか……ふっ、恐るべし拘束。


「おいなにしてんだ南沢ッ! やるなら早くしてくれッ! ……それともあれか? 俺を放置して楽しもうとしてんじゃねーだろうな? 放置プレイしようとしてんじゃねーだろうな? それならそれで俺は一向に構わないけどなッ!」


「楽しもうとしてるのは嘘ではないのだけれど、一番楽しそうにしているのは速水君、あなたの方でしょ」


「そんなわけないだろッ! こんなはずかしめを受けて……もう泣く寸前だよ、俺……へへへ」


「発言と表情に矛盾が生じてしまっているじゃない」


 頭痛でもするのか南沢は額を押さえ呆れたように言った。


 やれやれといった様子の彼女は、椅子ではなく机の上に座り、


「ま、どっちでもいいけど。結果として私の望んだシチュになったわけだし」


 怪しげに口の端を吊り上げた南沢は、俺の目の前でこれ見よがしに足を組む。その際、純白のパンティーがほんの一瞬、顔を覗かせたが俺は動じなかった。


 今更パンティー如きで興奮などしてやるものかッ! フハハハハハハハッ!


 ただの童貞とあなどるなかれ。午前の経験を経て大人の階段を一歩上がった俺のムスコは……もう前までの無垢むくなムスコとは違う。そう簡単にちはしないさ。


 ……あーすみません、少し訂正があります。わたくし、本当は勃っております。ただホントにパンティーで興奮したのではありません。ではなにに? と言われればそう――南沢が望んでいたと口にしていたこのシチュに――わたくし大変興奮してるわけでございます!


 閑話休題。


 ともあれ向こうの要求には応えたんだ。こっちの要求にも応えてもらわんとな。


 俺は雪のように白い南沢の太ももから視線を移し、彼女の瞳を見据える。


「お前がこれからなにをしようとしてるかは想像もつかねぇ。最悪、俺はここで死ぬ可能性だってある」


「ないわよ。速水君、私を一体なんだと思っているの?」


 南沢のツッコミを無視して俺は続ける。


「だからその前に――力尽きるその前にッ! 説明してもらいたいッ! どうしてあんなことをしたのかッ! その説明をしてもらいながら抜いてもら――あ、じゃなくて説明してもらいたいッ!」


「途中、本音が漏れなかった?」


「いや? 漏れかけただけで漏れてはない」


「そうね、漏れかけただけね。けど今の発言でだだ漏れになったわよ? 速水君」


「……確かに」


 短く返した俺を見て、南沢はクスッと笑う。


「まあいいわ。速水君の本音も、あながち間違いではないし。というより、ほぼ正解ね」


 含みのある言い方をした彼女は、右足の踵と上履きの内側の間に人差し指を入れる。


 そして南沢は脱いだ上履きを床に放った。何度か転がり、底面が天を向いて止まる。


「…………どういう意味だよ」


「そのままの意味よ」


 南沢はもう一方の上履きも脱ぎ捨てた。しくも一投目と同様、雨を乞う形だ。


「そ、そのままの意味って言われても……」


 戸惑う俺に、南沢は黒ニーソに包まれた右足を伸ばしてくる。


「〝説明されながら抜いてもらいたい〟んでしょ?」


 彼女のつま先が俺のあごを捉え――そして、


「なら――してあげるわよ」


 人生で初めての〝顎クイ〟をなるものを経験した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る