第17話 逮捕しちゃうぞッ1
昼を学食で済ませた後、俺は友達と別れて特別教室棟に足を向けた。
ここだよな。
二階の最西端にある教室の前で俺は立ち止まる。教室札にはなにも記されていない。
しかしなんだ……不気味だな。
何度か来たことあるがやはり慣れない。文化部の部室がいくつかある一階とは違い、二階は人の気配がなかった。
けどま、うってつけの場所でもあるな。
不気味さはむしろ好都合だった。なんせ内容が内容、誰かに聞かれでもしたら即アウツだろうから。
俺は引き戸に手を掛け横に引く。
まず最初に目に入ったのは、教室の中央に置かれた椅子に座って本を読んでいる南沢の姿だった。
俺の分だろうか椅子はもう一脚あり、南沢と向かい合う形で置かれてある。その間には一つの机……面談する時の配置を想像するとわかりやすいだろう。
「あら、早いわね」
俺に視線を寄越してそう口にした南沢は、そっと本を閉じて机上に置いた。
「まぁな」
俺は短く返して引き戸を閉めた。
「悪いのだけど、〝鍵〟をかけておいてくれるかしら?」
「あ? なんのために?」
「念のためよ」
「なんの念のため?」
「………………」
南沢は答えない。
鍵かけても立ち聞きされただけで終わりだしなぁ。
意味ないんじゃね? と思いつつ、しかしながら断る理由も見つからず、俺は南沢に従った。
「ついでにもう一方もお願い」
「なんのために?」
「念のためよ」
「……はぁ」
俺はもう片方の引き戸も同様に鍵をかけた。
「それと〝カーテン〟を閉めてくれるかしら?」
「は? なんのために?」
「念のためよ」
「なんの念のため?」
「………………」
またしても彼女は口を
コイツ絶対に『立ってるついでにお菓子持ってきて』感覚で言ってるよね? 意味ないと知ってて指示してきてるよね?
俺は内心で愚痴を零しながら少々雑にカーテンを閉めた。
「これでいいですかお嬢様?」
「ええ、結構よ。座っていいわ」
俺は南沢の背に向かって皮肉を込めて言ったが、彼女はまるで気にしたいない様子。こっちを見もせずに座るよう促してきた。
イライラしてるこっちが馬鹿みてーじゃねーか。
軽く溜息をついてから、俺は南沢の目の前にある椅子に腰を下ろした。
南沢はまだ昼飯をとっていなにのか、机の上には未開封のチョココロネが置かれている。
「んじゃ早速、説明してもらおうか」
「待って。説明に移る前にもう一つ、速水君に〝従って〟もらいたいことがあるの」
「まだなんかあんのかよ」
「ええ。鍵繋がりになってしまうのだけれど」
そう言って彼女はブレザーのポケットの中に手を突っ込み――そして、
「これを〝はめて〟もらいたいの」
俺を〝逮捕〟したいと宣言してきた。
「え、ちょ……これ……なに?」
「〝手錠〟だけど?」
だよね! どう見ても手錠だよねこれ! んで俺はなんの罪で捕まっちゃうの? 公然わいせつ罪かなにか? あ、それなら思い当たる節があるわ――じゃねええええよッ!
南沢の取り出した物……それは拘束具の代表と呼んでも過言ではないアイテムだった。
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