第15話 スリルを求めて

 結局、あの後すぐにチャイムが鳴って俺達は解散した。


 解散したと言っても俺だけは未だ残っているのだが。

『三人で一斉に戻るのはやめましょう……そうね、堀北さんは私と一緒に。速水君はしばらく経ってから戻ってきてちょうだい』


 そう言って二人は階段を下りていった。


 南沢の懸念けねんはもっともだ。三人揃って戻りでもしたらほぼ確実にクラスの連中から怪しまれるだろう。正当な理由があればこんなまどろっこしいことをせず堂々としていればいい。持ち合わせていないからこそ、遠回りするしかないのだ。


 ったく、不気味なくらい切り替え早いな。


 俺は壁に背を預けてその場にへたり込む。


 色香いろかに惑わされて本来の目的をすっかり見失ってたが……結局のところ南沢はただの痴女なのか? それともなんかしらの意図があったりとか……ダメだ、どこまで行っても憶測の域を出ない。やっぱ当人に訊くしかないか。


 南沢の謎は一時保留。俺は新たに増えた謎に焦点しょうてんを当てる。


 伊織のヤツ、一体いつからあんなエロくなった?


 今日に至るまで伊織とは何度も顔を合わせ言葉を交わしてきたが、そういった兆候は一切見られなかった。


 突然だったのだ。あまりに突然すぎて『あれ? 別の世界線にきちゃった?』って本気で疑っちゃったくらい突然だったのだ。


 なんだろ、パラレル系の作品に出てる主人公達の気持ちがちょっとわかった気がする。つっても向こうからしたら『ガキが、なめてんじゃねー殺すぞ!』って感じだろーけど。


「はぁ……」


 授業中ということもあり、吐き出した溜息がやたら大きく聞こえた。


 皆が勉強している中、俺はここでしばしのサボり。


 この優越感ゆうえつかんはきっと人をダメにする。しかし今は、今だけは――受け入れたい。


 バレることはまずない、だからこそ大胆にいきたい。スリルはありすぎてもなさすぎてもダメなんだ。


 小学生の時、己にルールを課して下校した人は多いんではなかろうか? 白線から出たら死ぬ、縁石から落ちたら死ぬ、そんなあまりにも理不尽なデスゲームを。


 敗北条件及び罰に多少の違いはあれど、今からやることはそれらとなんら変わらない。


 バレたら社会的に死ぬ……へ、いいねぇ、ゾクゾクしてきたぜ。


 ボタンを外し、ネクタイを解き、チャックを下ろし……俺は着ているもの全てを脱ぎ捨てた。


 さぁ――ショータイムだ!


 そして俺は一人、踊り場で優雅に舞うのであった。無論、全裸で。

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