第14話 そして鳴り響く鐘は、熱を冷ます。

「ね? 私が堀北さんのことを〝大人〟だと言った意味がよくわかったでしょ?」


 同意を求めてきた南沢だったが、俺は言葉を返さなかった。


 だってそんなこと、既に目の前の光景が語ってくれているのだから。


 伊織は目をギュッとつむり、口元を手で押さえている。我慢しているのは火を見るよりも明らかだ。


 まさか伊織が、こんな物を所持していたなんて……。


 現実を目の当たりにしておきながら、それでも俺には受け入れがたいものがあった。


 古傷がうずくかのようにエロ本を八つ裂きにされた記憶が想起される。


 あの時の伊織はエロを絶対悪として捉えていた節があった。身が清らかであることこそが正義、純潔じゅんけつバンザイッ! みたいな。


 そんな正義はいつのまにやら悪に陵辱りょうじょくされていたらしい。今ではエッチなアイテムを学校に持ってきてエッチなことしちゃってるのだから。


 まぁでも、へんにかたよった思想は視野をいちじるしく狭めるだけだし? そう考えればエロを許容できたってのは意外と正義なのかもしれない。順当に成長しているって意味で。


 しかしなんだろ……この得も言えない罪悪感は。


 おこがましいことこの上ない。悶絶もんぜつ必至ひっしのこのシチュエーションで、童貞如きの俺が冷静さを取り戻すなんて。


 さっきまでの俺はどうしようもないほど猿だった……やっぱり俺は伊織をそんな風には見れない。


 こういうことは彼氏とでもやってくれ。そう心中で呟きながら、俺は電源を切った。


「……はぁ……はぁ……」


 伊織は力が抜けたように俺の胸に倒れかかってきた。


「悪かったよ、伊織……これ、返すわ」


 そう言って俺が差し出すと、伊織は無言で受け取り上半身を起こす。


 そして、


「はぅ――」


 自らの手で、起動させた。


 ……………………。


「なんだか、堀北さんだけずるいわね……ふふ、私も失礼しちゃおうかしら」


 情報を処理しきれていない俺に追い打ちをかけるかの如く、今度は南沢が仕掛けてきた。


 俺の頭をまたぎ、純白のパンティーを晒す南沢。


「さっきの続きよ……速水君」


 段々と接近してくる純白のパンティー。やがて俺の視界は――白に包まれた。


 現状を一文字で表すのなら〝凹〟、これしかない。下が俺、両サイドが伊織と南沢だ。


 ……そっか……そうだよな……俺含めて皆……思春期、だもんな……。


 今後一生、これほど刺激に満ち溢れた休み時間を経験することはないだろう。


 そう、一生に一度、今回限りなのだ。だから後悔なきよう――。


 スウウウウ――ハアアアアアァ……。


 全力で嗅がしてもらおうじゃないか。

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