第13話 堀北伊織5

「べ、別にったとかじゃ――」


「ゔああああああああああああああああああッ!」


 伊織は俺の言葉に最後まで耳を傾けず、顔を真っ赤にして突進してきたが、俺は間一髪かんいっぱつのところでかわした。


 躱したと言っても伊織の気迫に押されて背中からすっ転んだだけだが。


「いてて……ったく、なにをそんなに慌てて――」


「――返してよ早太郎ッ!」


 間髪かんぱつ入れずに第2派が。伊織は身を起こす猶予ゆうよすらくれずに馬乗りになって、俺が握っている物を必死に取り返そうとしてくる。


「ぐぬぬ――んもうッ! 早く返してよッ!」


 がしかし、非力な伊織は俺の拳を開かせることができずにいた。


 あぁ……伊織のアソコが俺のムスコに接している。


 そんな余裕も相まって、俺は〝今〟に興奮していた。幼馴染とは言えど女子、こればっかりは仕方がないことなんでどうか見逃してください。


「早太郎の……馬鹿……」


 涙目になりつつそれでも諦めない伊織のなんと健気けなげなことか。


 なにも南沢に従う義理はない。かわいそうだから伊織に返してあげよう……もう少しこの状態を楽しんでからだけど!


 てなわけで、俺は握る力を強める。


 そしてお尻を上げ、自分のムスコが元気ハツラツであることを伊織に主張した。


「もう……返してよぉ……早くぅ……」


 くくく。伊織のやつ、押し付けられてることにまったく気付いてないな。よぉし、今度は腰を振っちゃおうかな――。


「――速水君」


 名案閃いたり。俺が頭の上に感嘆符かんたんふを浮かべていると、ぞっとするくらい低く冷めた声音が天から降り注がれた。見れば南沢がコピーアンドペーストしたような笑みを浮かべている。


 わ、笑っているようで笑ってない。さらに言うなら目が怖いッ⁉


「なに悠長にしてるの?」


「え、あ、いやこれは――」


「――早く、押して?」


「は、はい!」


 情けないかな、氷の女王たる所以ゆえんをまざまざと見せつけられ、俺は赤べこのように頷くしかできなかった。


「ダメ! やめてそうたろ――」


 伊織からの制止の呼びかけを無視し、俺はポチっと電源ボタンを押した。


「あっ――」


 連動するようにビクンッ! と伊織の体が反応する。


「いや……やめて……早太郎……ん」


 伊織は苦しそうとも気持ちよさそうとも取れる表情をして歯を食いしばっている。


 ……………………。


 伊織に限ってそんなことは……なんて思い込みによって除外した〝アイテム〟が今、信憑性しんぴょうせいまとって脳裏のうりに居すわる。


 俺のムスコが感じているこの〝バイブレーション〟は――明らか電源をオンにしてから始まった。


 これは……そう……単なる最終確認だ。


 そう自分に言い聞かせ、俺は〝+〟ボタンに親指をもっていった。


「ひゃうっ――」


 するとなんと――振動の強さ及びパターンが……変わったのだ。


 ハ……ハ……ハ――ハレルヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

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